医療法人の設立は、一般的な会社設立(株式会社など)とは異なり、医療法という特別な法律に基づいているため、非常に複雑で多くの要件や手続き、提出書類が必要になります。また、都道府県によってローカルルールや審査の厳しさに差があることも特徴です。
富山県での設立を想定して、基本的な流れと要件、主な必要書類についてご説明します。
医療法人設立の大きな特徴
- 非営利性: 医療法人は営利を目的とせず、剰余金の配当が禁止されています。
- 都道府県知事の認可: 勝手に設立できるわけではなく、主たる事務所を管轄する都道府県知事の認可が必要です。
- 申請期間の限定: 多くの都道府県では、設立認可の申請期間が年1回または2回に限定されています。この期間に合わせて、数ヶ月前から準備を進める必要があります。
- 専門家の関与: 書類作成の複雑さから、行政書士や税理士、司法書士といった専門家に依頼するのが一般的です。
医療法人設立の流れ(主なステップ)
医療法人を設立し、診療を開始するまでの一般的な流れは以下のようになります。準備開始から完了まで、最低でも半年~1年程度かかると見ておくと良いでしょう。
- 設立認可申請の相談(医務課による事前確認)
※仮申請書類等による形式審査及び問題点のチェックを行います。
↓ - 設立認可申請書の提出
※提出書類は関連ファイルよりご確認ください。
↓ - 富山県医療審議会への諮問
↓ - 設立認可
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設立準備・事前相談
- 設立趣旨の決定: なぜ医療法人にするのか、目的を明確にします。
- 要件の確認: 人的要件、資産要件、施設要件などを確認します。
- 行政庁との事前相談: 提出書類の作成方針や疑問点について、都道府県の担当部署(富山県であれば、厚生部医務課など)と事前に綿密に協議します。これが非常に重要です。
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定款(または寄附行為)の作成・設立総会の開催
- 定款等の作成: 法人の目的、名称、事務所所在地、開設する医療機関の名称・所在地、資産・会計、役員に関する事項などを定めます。これは法人の根本となるルールブックです。
- 設立総会の開催: 定款等を承認し、役員(理事、監事)の選任、事業計画・予算の決定など、設立に必要な事項を決定するための総会を開催し、議事録を作成します。医療法人の場合は社員が3名以上必要です。
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医療法人設立認可申請書の作成・提出(都道府県)
- 申請期間に注意: 各都道府県が定める申請期間内に、大量の必要書類(後述)を添付して提出します。
- 書類審査・補正: 提出後、都道府県による厳格な書類審査が行われ、不備があれば補正指示が出されます。面談や実地調査が行われることもあります。
- 医療審議会での審査: 審査が通ると、都道府県の医療審議会に諮問され、審議を経て認可の可否が決定されます。
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設立認可書の交付
- 医療審議会の承認後、都道府県知事から設立認可書が交付されます。
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医療法人設立登記(法務局)
- 認可書の交付日から2週間以内に、主たる事務所の所在地を管轄する法務局で設立登記を行います。登記が完了して初めて医療法人が法的に成立します。
- 司法書士に依頼するのが一般的です。
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診療所開設許可申請・開設届(保健所)
- 医療法人の設立登記後、速やかに、管轄の保健所に診療所等の開設許可申請を行います。個人診療所から法人へ移行する場合は、個人の診療所廃止届も同時に提出します。
- 開設許可が下りたら、開設届を提出します。
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保険医療機関指定申請(地方厚生局)
- 保険診療を行うためには、地方厚生局に「保険医療機関」としての指定を受ける必要があります。申請の締め切り日が月に1回あるので、間に合うように準備します。
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その他の手続き
- 税務署への法人設立届出書の提出
- 社会保険関係の手続き(健康保険、厚生年金保険)
- 労働保険関係の手続き(労災保険、雇用保険)
- 医師会への入会届、賠償責任保険の加入
- 既存のリース契約や借入金の名義変更など
医療法人設立の主な要件
大きく分けて「人」「物」「お金」に関する要件があります。
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人的要件
- 社員: 医療法人の場合、原則として3名以上必要です。(株式会社の株主に近い存在で、重要事項を決定する権限を持ちます。)
- 役員: 理事(理事長を含む)3名以上、監事1名以上が最低ラインです。
- 理事長: 必ず医師または歯科医師でなければなりません。
- 医療機関の管理者: 必ず理事に加える必要があります。
- 監事: 理事や法人の職員は監事に就任できません。また、役員欠格事由に該当しない者である必要があります。
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施設・設備要件
- 少なくとも1箇所以上の病院・診療所・介護老人保健施設を設置すること。
- 医療行為を行うために必要な設備・器具が確保されていること。
- 診療所の構造設備が、医療法上の基準を満たしていること。
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資産要件(財産的基礎)
- 医療法人の業務を安定的に継続できるだけの十分な資産(財産的基礎)**を有していること。
- 具体的には、設立後2ヶ月分の運転資金に相当する現預金が確保されていることが一般的です。(例えば、毎月の経費が200万円なら、400万円以上の現預金が必要)。
- 個人から法人へ施設や設備を譲渡する場合は、その買取資金も別途必要になります。
- 負債を引き継ぐ場合は、それが医療法人に拠出される財産に対応する負債であることや、償還計画が適切であることなどが問われます。