遺言書は「想い」も残せる、家族への手紙
遺言書と聞くと、「財産の分け方を決める、硬い書類」というイメージをお持ちかもしれません。もちろん、法的効力を持つ重要な文書ですが、実はそれだけではありません。遺言書には、「付言(ふげん)」という形で、あなたの「想い」や「メッセージ」を家族に伝えることができる、温かいスペースがあるのです。
今回は、この付言の役割と書き方について、詳しくご紹介します。
1. 遺言書の「付言」とは?その役割と書き方
付言とは、公正証書遺言書の最後に記載される、遺言者(故人)から家族や関係者へのメッセージのことです。通常、約A4用紙1枚程度の分量で、自分の家族への率直な想いをつづることができます。
付言に書かれた内容には、法的効力はありません。 例えば「相続財産を〇〇に全て残す」という部分が遺言の法的効力を持つ部分であるのに対し、付言は「なぜそう決めたのか」「家族にどうしてほしいか」といった、気持ちの部分を伝える役割を担います。
しかし、この法的効力がないからこそ、付言は非常に重要な意味を持ちます。
2. 付言が「争族」を防ぐカギとなる理由
付言の最大の役割は、残された家族間の「争族」を防ぐことです。
例えば、遺言書で特定の相続人の遺留分(法律で保障された最低限の相続割合)を配慮しない内容(例:相続財産の全てを妻に残す)を記す場合、遺留分を侵害された相続人から不満やトラブルが生じる可能性があります。
このような場合に、付言にその理由や背景を丁寧に記すことで、家族の理解を促すことができます。
【付言の例文】 「私が会社を立ち上げた時は、何もかもが手探りで、本当に大変な苦労を〇〇(妻の名前)と一緒に乗り越えてきました。子供たちには申し訳ない気持ちもありますが、〇〇への感謝の気持ちを込めて、私の相続財産の全てを〇〇に残したいと考えています。これからは家族みんなで仲良く助け合い、幸せに暮らしてくれることを心から願っています。」
このように、遺産配分の理由や、家族への感謝、これからの願いなどを記すことで、残された家族は遺言者の真意を理解しやすくなります。 法的な効力はなくても、故人の温かい言葉は、法律の条文以上に家族の心を和ませ、絆を深める力を持っているのです。
3. 付言は「故人からのラブレター」や「自分史」にもなる
付言は、形式にとらわれず、あなたが家族に伝えたいことを自由に書ける場所です。
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故人の最後の「ラブレター」として: 特に配偶者へ向けて、共に歩んだ人生への感謝や愛情を綴ることは、残された配偶者にとって何よりの心の支えとなるでしょう。まさに、故人からの「最後のラブレター」として、深く心に響くメッセージを残すことができます。
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「自分史」や「家族へのメッセージ」として: 子供たちや孫たちへ、自身の人生観、大切にしてきたこと、伝えたい教訓などを記すことも可能です。また、元気なうちに書ききれなかったことや、日頃はなかなか伝えられない感謝の気持ちを綴るのも良いでしょう。
付言は、法的拘束力がないからこそ、あなたの個性や人間性が滲み出る、温かいメッセージを残せる場所なのです。
4. 付言を書く際の注意点
基本的に何を書いても自由ですが、いくつか心に留めておきたい点があります。
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ネガティブな内容は避ける: 文字として残るものですから、特定の相続人への誹謗中傷や、不平不満、恨み言など、残された家族の心を傷つけるような内容は避けるべきです。かえってトラブルの火種になりかねません。
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誤解を招く表現に注意: 法的効力がないとはいえ、あまりに曖牲な表現や誤解を招くような書き方は避けた方が無難です。
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あくまで「想いを伝える」場: 「この財産は〇〇に譲る」といった法的な指示は、付言ではなく、遺言の本文に明確に記載するようにしましょう。
遺言書は、あなたの財産をどう分けるかだけでなく、「あなたの人生」そして「家族への深い愛情」を伝える大切な手段です。特に「付言」は、法的な効力は持たないながらも、残された家族の心に深く刻まれる、かけがえのないメッセージとなります。
あなたの最期の言葉が、家族間の絆を強め、未来の彼らが笑顔でいられるための温かい道しるべとなるよう、ぜひ付言にあなたの本当の想いを綴ってみませんか。もし書き方に迷われたら、私たち専門家がお手伝いいたします。お気軽にご相談ください。