相続が発生した際、財産の分配はしばしば感情的な問題や、後のトラブルを引き起こす可能性があります。特に不動産や特定の趣味に関する財産は、配慮を欠くと不満が残りやすいものです。
円滑かつ、ご相続人様皆さまにご納得いただける財産分配のためのポイントを解説いたします。
1. 不動産の分配:「住居の安定」への配慮が最優先
不動産は、その性質上、最も慎重な配慮が求められる財産です。特に、故人様と同居されていたご相続人様が現在もその不動産に居住されている場合、以下の点が重要です。
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居住権の尊重: 現在の住まいを失うことは、精神的・経済的に大きな負担となります。そのため、現に居住されているご相続人様がその不動産を相続することは、居住の安定という観点からも、原則として最も望ましい選択肢の一つです。
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代償分割の検討: 不動産は高額になりがちで、特定の相続人が単独で取得すると、他の相続人との間に不公平が生じることがあります。この場合、不動産を取得した相続人が、他の相続人に対して金銭(代償金)を支払う「代償分割」を検討することで、公平性の確保が可能です。
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売却(換価分割)も選択肢に: 相続人全員がその不動産を利用する予定がなく、代償分割も難しい場合は、売却して現金化し、その現金を法定相続分や遺言に従って分配する「換価分割」も有効な手段となります。
2. 特定の財産(株式・趣味の品)の分配:「興味」と「利用価値」を尊重する
金融資産や趣味に関する財産は、その財産への興味や知識、継続的な利用意向を持つご相続人様に引き継ぐことで、財産の価値を活かし、ご本人様にも喜ばれます。
| 財産の種類 | 賢明な分配の視点 | メリット |
| 株式・投資信託 | 投資に関心・知識がある相続人に相続させる。 | 故人様の運用を継続でき、売却益や配当金といった恩恵も活かせます。知識のない相続人にとっては、管理や売却の手間を回避できます。 |
| ゴルフ会員権・別荘 | ゴルフや利用に関心がある相続人に相続させる。 | 利用しない相続人が持っても意味が薄い財産です。利用する人に譲ることで、財産が「利用価値」を保てます。 |
| 美術品・コレクション | その価値を理解し、保管・管理できる相続人に相続させる。 | 適切な管理が財産の価値維持に繋がります。換価価値(売却価格)が不明確な場合も多く、希望者が引き取るのが最善です。 |
3. 全ての分配に共通する重要なステップ
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正確な財産評価: 特に不動産は、固定資産税評価額だけでなく、路線価、時価(不動産鑑定士等)など、複数の視点から公平な評価を行うことがトラブル防止の第一歩です。
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遺産分割協議: ご相続人様全員が参加し、率直な意見とお互いの状況への配慮をもって話し合うことが最も重要です。特定の財産を希望する理由(例:この家に住み続けたい)を明確に伝え合いましょう。
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遺言書の重要性: 上記のような配慮を故人様ご自身の意思として実現するために、生前の遺言書作成が最も確実な方法です。遺言書があれば、後の紛争を劇的に減らすことができます。
円満な相続は、単に法律や金額の問題だけでなく、「故人様の想い」と「ご相続人様間の思いやり」によって実現します。分配の方向性にお悩みでしたら、ぜひ行政書士にご相談ください。