「親の介護は私ばかりが頑張ったんだから、遺産は多くもらう権利がある」
そう主張する姉と、「私もできる限りのことはした」と訴える妹。相続の話し合いで、こんな対立が起こることは少なくありません。特に、親孝行の形が異なる兄弟姉妹間では、お互いの貢献を巡って深刻な溝が生まれることがあります。
今回は、そんな家族のよくある事例をもとに、相続で問題になりやすい「寄与分」と、その背景にある家族間の「見えない溝」について考えてみましょう。
介護vs仕送り、どちらの貢献が認められる?
【姉の主張】 「私は親の隣の県に住んで、頻繁に帰省して身の回りの世話をした。介護認定にも付き添った。これは寄与分として評価されるべきだ」
【妹の主張】 「私は遠方に住んでいて頻繁な帰省は無理だった。その代わり、旅行に連れて行ったり、お菓子を送ったり、お金も使ってきた。これだって親孝行だ」
一見、どちらの主張ももっともなように聞こえます。しかし、法律の世界では、両者の貢献は全く異なる評価を受けます。
「寄与分」として認められるハードル
「寄与分」とは、故人の財産を維持・増加させるのに特別な貢献をした場合に、他の相続人より多く財産をもらえる制度です。
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姉の貢献は? 親の介護や世話は「寄与分」として認められる可能性があります。しかし、「特別な貢献」とみなされるためには、単なる日常的な扶養義務を超えていることが必要です。このケースで姉が親から交通費やお金をもらっていた場合、その貢献は「無償」ではないと判断され、寄与分として評価される可能性は低くなります。
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妹の貢献は? 残念ながら、親孝行として行った旅行や贈り物、仕送りなどは、法律上「扶養義務の範囲内」と見なされることがほとんどです。これは「特別の寄与」とは認められにくく、寄与分として主張するのは困難です。
親の生前から始まる「相続」という名の争い
最も深刻な問題は、親御様がご健在のうちから、財産をめぐって動きが出ている点です。
「相続税がかかるから」と親の預金を引き出す行為は、親の意思能力が確認できなければ、後々「特別受益」として他の相続人から追及される可能性があります。また、親の財産が誰の管理下にあるか不透明になることで、不信感が兄弟間で増幅し、遺産分割協議が始まる前から、すでに家族関係に亀裂が入ってしまうのです。
争いを避けるためにできること
親孝行の形は人それぞれです。しかし、それが将来の争いの火種になることは避けたいものです。
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感謝の気持ちを言葉で伝える: 介護や金銭援助など、お互いの貢献を認め合い、感謝の気持ちを言葉にして伝えることが、感情的な対立を防ぐ第一歩になります。
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親との対話を大切に: 親御様が元気なうちに、自身の財産や今後の希望について、家族間で話し合う機会を設けることが重要です。
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記録を残す: 介護日誌や送金記録など、貢献した内容を客観的な形で記録しておくことは、いざという時の助けになります。
相続は、単なる財産の分配ではなく、故人との関係、そして家族の歴史を清算する場でもあります。大切な家族と、円満な形でこのプロセスを乗り越えるために、今からできることを考えてみてはいかがでしょうか。