遺産分割協議は相続人全員の合意がなければ成立しません。

有効な遺言書がない場合、原則として民法で定められた「法定相続分」に従って遺産を分割することになります。これは相続の最も基本的なルールの一つです。すべての相続財産は、まず「共有」の状態となる そして、もう一つの重要なポイントは、遺言書がない場合、故人の残したすべての相続財産(不動産、預貯金、有価証券など)は、個々の相続人に直接「この財産はあなたのもの」と割り当てられるのではなく、いったん相続人全員の「共有」の状態になるということです。遺産が一旦共有状態になるのは、相続人それぞれの権利を平等に保護するためです。ここから、相続人全員で「遺産分割協議」という話し合いを行い、「この不動産は長男が、この預貯金は長女が」といった形で、共有状態を解消し、具体的な財産の分け方を決めていくことになります。

その話し合いの場が「遺産分割協議」であり、そこで合意した内容をまとめるのが「遺産分割協議書」です。この遺産分割協議書にはそれぞれの財産を具体的に誰が取得するのか書かれています。

この「共有」とは、例えるなら、それぞれの相続人が財産全体に対して、法定相続分に応じた「持ち分」を持っている状態です。例えば、法定相続分が2分の1の相続人は、遺産全体の2分の1の「持ち分」を持っていることになります。しかし、どの財産を具体的に取得するかは、まだ決まっていません。

有効な遺言書がない場合でも、必ずしも法定相続分通りに分割しなければならないわけではありません。相続人全員の合意があれば、法定相続分とは異なる割合で遺産を分割することも可能です。

遺産分割協議で合意するために、相続人全員が物理的に一堂に会する必要は特にありません。最も重要なのは、相続人全員が遺産分割の内容に同意することです。

まとめると、

遺言書がある場合: その遺言書の内容が優先されます(ただし、遺留分には注意が必要)。

遺言書がない場合:

  • 原則: 法定相続分通りに分割する。

  • 例外: 相続人全員で遺産分割協議を行い、全員の合意があれば、法定相続分とは異なる割合で分割することも可能。となります。

次に寄与分をみていきます。

寄与分とは? 民法第904条の2に定められているもので、共同相続人の中に、被相続人の財産の維持または増加に「特別の寄与」をした人がいた場合に、その寄与分を相続財産からあらかじめ控除し、残りを法定相続分などで分けることで、実質的に寄与した人の相続分を増やす制度です。

「親の介護を献身的に行った」「家業を手伝い、無償で財産増加に貢献した」といったケースがこれに該当すると考えられます。

法定相続分から個別の事情を調整する寄与分の制度は存在しますが、その適用には高いハードルがあり、実際に遺産分割協議でスムーズに認められることは少ないのが現実です。感情的な対立や証明の難しさから、最終的には法的な基準である法定相続分で落ち着く、という状況がよく見られます。

 

もし、特定の相続人の寄与を具体的に遺産分割に反映させたいのであれば、生前のうちに遺言書でその旨を明確にしておくことが、最も確実な方法となります。

次にみていくのは不動産の相続です。

遺産分割協議で不動産を法定相続分通りに分けると、多くの場合「共有名義」になります。

共有名義の不動産: 遺産分割協議で合意に至らず、相続人が複数いる不動産をそのままにしておくと、自動的に法定相続分に応じた共有状態になります。この場合、例えば「長男が2分の1、次男が2分の1」といった共有持分を持つことになります。「預貯金は◎◎、不動産は〇〇」といったように、特定の財産を特定の相続人が単独で取得する方が、後のトラブルは少なくなります。特に遠方に住んでいて不動産を利用しない相続人にとっては、現金や預貯金で受け取る方がはるかに合理的でしょう。

相続人の増加と関係性の希薄化

  • 共有名義のまま最初の相続人が亡くなると、その持分がさらに次の相続人(子、つまり被相続人から見ると孫など)に引き継がれます。

  • 世代が進むにつれて共有者の数は雪だるま式に増えていき、それぞれの共有持分はどんどん細分化されます。

  • 面識のない遠い親戚が共有者になったり、連絡先すら分からない人が出てきたりすることで、話し合い自体が極めて困難になります。

 

不動産が売却できない場合、どうなる?

親御さんが住んでいた不動産を相続人が取得せず、売却して現金で分けたい、というケースは非常に多いです。しかし、その不動産がなかなか売れない場合は、いくつかの選択肢を検討することになります。どの方法が最適かは、不動産の状況、相続人同士の関係、そして相続人それぞれの経済状況によって異なります。

今回は、有効な遺言書がない場合の相続の基本的なルールから、法定相続分、そしてすべての相続財産が一時的に「共有」となる初期状態について解説しました。相続は、ご自身の財産が関わるだけでなく、ご家族間の関係性も大きく影響するため、非常に複雑でデリケートな問題です。

「うちはどうなるんだろう?」「この場合はどうすればいいんだろう?」

そう考えても、なかなか良い解決策が思い浮かばない。 ましてや、このようなデリケートな財産の話し合いは、親しい友人や知人に相談しにくいものです。いざという時に、心から信頼して相談できる相手がいないと感じる方も少なくありません。

そんな時こそ、どうか一人で抱え込まず、専門家を頼ってください。

私たち相続の専門家は、個々の家族構成や財産の状況、そしてご家族それぞれの気持ちを丁寧にヒアリングし、法的な知識と豊富な経験に基づいた「最善の良案」を共に探すお手伝いをいたします。

複雑に絡み合った相続の問題を紐解き、争いのない円満な解決へ導くために、ぜひお気軽にご相談ください。

 

 

 

【法定相続分】誰がいくらもらえる?相続割合を徹底解説

それでは、相続人の組み合わせ別に、法定相続分の割合を見ていきましょう。

前回は、万一の際に「誰が相続人になるのか」という相続順位について解説しました。相続順位を理解したら、次に気になるのは「では、相続人それぞれがどれくらいの割合で遺産を受け取れるのか」ということですよね。

この、民法で定められた相続人が受け取るべき遺産の割合を「法定相続分」といいます。

ご自身のケースに当てはめて、相続分がいくらになるのか確認してみてください。

 

【重要ポイント】

  1. 相続放棄をした人の子に代襲相続は発生しません。 相続権は次順位の相続人に移ります。例えば、子が相続放棄しても、その子(被相続人の孫)が代わりに相続することはありません。

  2. 養子縁組の種類と相続権:知っておきたい二つのパターン

    一口に「養子」と言っても、その縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2つのパターンがあり、それぞれ相続権の扱いに違いがあります。

     

    ①. 普通養子縁組

  • 相続権の状況: 普通養子縁組をした場合、養子は実の父母(実親)と養父母の双方から相続する権利を持ちます。つまり、二重の相続権を持つことになるわけです。
  • 特徴: 実親との親子関係は存続したまま、養親との間に新たな親子関係を結びます。戸籍にもその旨が記載されます。

  ②. 特別養子縁組

  • 相続権の状況: 特別養子縁組をした場合、養子は実の父母との法律上の親子関係が完全に終了します。そのため、実親からの相続権は失われ、養父母からのみ相続する権利を持ちます。

  • 特徴: 養子の福祉を目的とし、実親との縁を切って養親との間に完全に新たな親子関係を築きます。これにより、養子は養親の戸籍に入り、実親との関係は戸籍上も抹消されます。


 3.嫡出子と非嫡出子の相続分:法改正で差はなし

かつては、法律上の婚姻関係にある夫婦から生まれた子(嫡出子)と、そうでない子(非嫡出子)とでは、相続分に差が設けられていました。しかし、この規定は最高裁判所によって違憲と判断され、法改正が行われました。

これは、個人の尊厳と法の下の平等という観点から、より公平な相続を実現するための重要な改正点です。

現在の相続分: 今では、嫡出子と非嫡出子の間の法定相続分に差はありません。

どちらの子も、等しく2分の1ずつの相続分を持つことになります。

 

4.半血兄弟姉妹がいる場合の相続分の計算

まず、兄弟姉妹の相続分は全体で1/4(配偶者がいる場合)か、全体で100%(配偶者・子・直系尊属がいない場合)です。

下の例は配偶者・子・直系尊属がいないため、兄弟姉妹全員で100%(6,000万円)を分けることになります。この100%を、半血兄弟姉妹がいる場合は、以下のように考えます。

例:遺産6,000万円で、兄弟姉妹2人のみ(A:全血兄弟姉妹、B:半血兄弟姉妹)の場合

「半血兄弟姉妹は全血兄弟姉妹の半分の相続分」というルールは、平等に割るのではなく、このような比率で按分するという意味合いになります。

  • 全血兄弟姉妹を「2」の割合

  • 半血兄弟姉妹を「1」の割合

  1. 各人の割合を合計します。

    • Aさん(全血)の割合:2

    • Bさん(半血)の割合:1

    • 合計割合: 2 + 1 = 3

  2. 遺産全体をこの合計割合で按分します。

    • Aさん(全血兄弟姉妹)の相続分: 6,000万円 × (2 / 3) = 4,000万円

    • Bさん(半血兄弟姉妹)の相続分: 6,000万円 × (1 / 3) = 2,000万円

​​今回は、相続の際に特に重要となる「法定相続分」について、具体的な割合や計算例を交えながら詳しく解説しました。前回お伝えした相続順位と合わせてご理解いただけたでしょうか。

ご自身の状況を「図に置き換えて見てください」とお伝えしても、相続は家族構成や財産の状況が複雑に絡み合うため、「これで完璧!」とはなかなかいかないものです。特に、以下のようなケースでは、思い違いや勘違いが生じやすいので注意が必要です。

  • 代襲相続の範囲を誤解していた

  • 相続放棄が次順位の相続人に与える影響を知らなかった

  • 養子縁組の種類によって相続権が異なることを知らなかった

  • 非嫡出子の相続分が今では嫡出子と同じだと知らなかった

  • 半血兄弟姉妹の相続分の計算方法が複雑だった

「自分の場合はどうなるんだろう?」「この解釈で合っているのかな?」と少しでも不安に感じたり、「もしかして、思い違いをしているかも?」と感じたら、一人で悩まず、どうぞお気軽にご相談ください。

 

今回は、この相続順位の基本を、分かりやすい図で徹底解説します。ご自身のケースに当てはめて、誰が相続人になるのか、ぜひ確認してみてください。

*常に相続人:配偶者(夫、妻 内縁関係除く)第一順位:子 第二順位:直系尊属(父母、祖父母など)第三順位兄弟姉妹

 ​上記の図を踏まえ、各順位について詳しく見ていきましょう。

  • 配偶者相続人(常に相続人)

    • 被相続人の配偶者(夫または妻)は、血族相続人(子、父母、兄弟姉妹)の有無にかかわらず、常に相続人となります。

    • ただし、法律上の婚姻関係にある配偶者に限られ、内縁の妻(夫)は含まれません。

  • 第1順位:子

    • 被相続人に子がいる場合、子が第1順位の相続人となります。

    • 実子だけでなく、養子も含まれます。

    • 子が複数いる場合は、全員が同じ割合で相続します。

  • 【ポイント:代襲相続】

    • もし、被相続人が亡くなるよりも前に子が亡くなっていた場合、そのその子(被相続人から見ると孫)が、亡くなった子に代わって相続人となります。これを「代襲相続」といいます。

    • 代襲相続は、元の相続人が死亡、相続欠格、廃除された場合にのみ発生します。相続放棄した場合は代襲相続は発生しないため注意が必要です。

  • 第2順位:直系尊属(父母、祖父母など)

    • 被相続人に子(およびその代襲相続人)がいない場合に、直系尊属(父母、祖父母など)が第2順位の相続人となります。

    • 実の父母だけでなく、養父母(普通養子縁組)も含まれます。

    • 父母がすでに亡くなっている場合は、祖父母が相続人となります(より被相続人に近い世代が優先されます)。

  • 第3順位:兄弟姉妹

    • 被相続人に子(およびその代襲相続人)も、直系尊属もいない場合に、兄弟姉妹が第3順位の相続人となります。

    • 全血兄弟姉妹(父母が同じ兄弟姉妹)と半血兄弟姉妹(父母のどちらか一方のみ同じ兄弟姉妹)がいます。

  • 【ポイント:代襲相続】

    • もし、被相続人が亡くなるよりも前に兄弟姉妹が亡くなっていた場合、その兄弟姉妹の子(被相続人から見ると甥・姪)が、亡くなった兄弟姉妹に代わって相続人となります。(一代限り)

    • 代襲相続は、子の代襲相続と同様、元の相続人が死亡、相続欠格、廃除された場合にのみ発生し、相続放棄した場合は代襲相続は発生しません。

まとめ:相続順位の理解がスムーズな相続の第一歩

 

相続順位を正しく理解することは、誰が相続人になるのか、どれくらいの割合で相続権があるのかを知る上で非常に重要です。特に、代襲相続のルールや、相続放棄が次順位の相続人に与える影響は、相続トラブルを避けるために必ず知っておきたいポイントです。

有効な遺言書がない場合でも、相続人全員が納得して手続きを進めるためには、まずはこの相続順位の基本を押さえることから始めましょう。

ご自身の相続について不安な点があれば、お気軽にご相談ください。

生命保険金が、民法上は「相続財産」ではないけれども、相続税の対象となる「みなし相続財産」であること。そして、受取人の指定方法や状況によっては、遺産分割協議の対象となること。これらは、「知っているつもりでも、案外見落としがちなポイント」です。

「遺産相続」と聞くと、預貯金や不動産、株式など、故人(被相続人)が持っていたすべての財産を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。しかし、実はその中に、「生命保険金」は原則として含まれないということをご存知でしょうか?

これは相続に関する大きな誤解の一つであり、知っているか知らないかで、相続手続きの複雑さや、時には家族間のトラブルを回避できるかどうかが大きく変わってきます。

今回は、この「生命保険金は相続財産ではない」という原則と、その例外、そして皆さんにぜひ知っておいていただきたい注意点について解説します。

 

1. 生命保険金が「相続財産ではない」って本当?

はい、本当です。 民法上、生命保険の死亡保険金は、「相続財産」には含まれません。 これは、生命保険は、あらかじめ契約で「受取人」が指定されており、その受取人が保険会社から直接、保険金を受け取る「固有の権利」として発生するからです。

つまり、保険金は、被保険者(亡くなられた方)が生前に所有していた財産とはみなされず、相続人が「相続」によって引き継ぐものではありません。

この原則があるため、もし有効な遺言書がなくても、遺産分割協議の対象とならず、指定された受取人がスムーズに保険金を受け取ることができるのです。これは、残されたご家族の当面の生活費や、葬儀費用など、急ぎで資金が必要な場合に非常に大きなメリットとなります。

 

2. 要注意!生命保険金が「相続財産になる」ケースとは?

原則として相続財産ではない生命保険金ですが、いくつか「相続財産となる」例外のケースがあります。以下の場合は、他の財産と同様に遺産分割協議の対象となり、手続きが複雑になる可能性がありますので注意が必要です。

  1. 受取人が「契約者ご本人(亡くなられた方)」となっている場合 これは稀なケースですが、もし保険契約の受取人欄に被保険者ご自身の名前が記載されている場合、保険金は被保険者の死亡と同時に、その方の「遺産の一部」として扱われます。

  2. 受取人欄に「法定相続人」と抽象的に記載されている場合 特に、昔の生命保険契約の中には、受取人欄に「法定相続人」とだけ抽象的に記載する形式が多かったものがあります。この場合も、特定の個人が受取人として指定されているわけではないため、保険金は相続財産として扱われ、遺産分割協議の対象となります。

  3. 指定していた受取人が被保険者より先に亡くなり、変更手続きをしなかった場合 これも非常に多いケースです。例えば、夫が妻を受取人に指定していたものの、妻が夫より先に亡くなってしまい、夫が新しい受取人を指定し直す前に亡くなってしまったような場合です。この場合も、結果的に法定相続人全体に保険金を受け取る権利が移る形となり、遺産分割協議の対象となります。

これらのケースに該当すると、せっかく遺産分割の必要がないはずの生命保険金が、かえって遺産分割協議の対象となり、手続きが滞ったり、予期せぬトラブルの原因になったりする可能性があります。

3. 今すぐ確認を!そして未来への準備を

生命保険は、残されたご家族への大切な「贈り物」であり、経済的な支えとなるものです。しかし、その契約内容によっては、意図せず相続の際の混乱を招いてしまうこともあります。

特に、生命保険金が特定の相続人に多額に渡り、結果として他の相続人が受け取る財産が極端に少なくなるような場合、たとえ法律上は問題なくても、感情的なしこりや不公平感が生まれてしまうことがあります。相続は、法律だけでなく、残されたご家族の気持ちにも寄り添う「配慮」が大切になる場面も少なくありません。

だからこそ、ご自身の生命保険契約の受取人が誰になっているのか、そしてそれが相続全体にどのような影響を与えるのかを、改めて確認してみてください。必要であれば、受取人を変更する、あるいは遺言書と合わせて生命保険金の意図を「付言」などで明確にしておくことで、ご家族間のトラブルを未然に防ぐことができます。

生命保険は、大切なご家族を経済的に守るための有効な手段であると同時に、「争わない相続」を実現するための羅針盤ともなり得ます。複雑に感じるかもしれませんが、早めに準備を進めることで、きっとあなたの「家族への想い」を、確かな形で未来へつなぐことができるでしょう。

もし、ご自身の生命保険契約や相続のことで少しでも不安を感じたら、どうぞお気軽にご相談ください。専門家が、あなたの状況に合わせて最適なアドバイスをさせていただきます。

「相続人が海外に住んでいるのだけれど、どうしたらいい?」

近年、国際化が進む中で、このようなご相談をいただく機会が非常に増えてきています。大切なご家族との相続手続きは、ただでさえ多くの書類や専門知識が必要ですが、相続人の中に海外在住の方がいらっしゃると、さらに複雑な手続きや時間が必要となることがあります。

今回は、相続人が海外にいる場合の「手続きの壁」と、その対処法、そして注意点について詳しく解説します。

 

1. 有効な遺言書がない場合の「遺産分割協議」が最初の関門

 

もし故人(被相続人)が有効な遺言書を残していない場合、相続手続きは原則として、相続人全員で遺産分割協議を行い、その内容に合意する必要があります。

海外にいる相続人と連絡を取るだけでも、国際電話やSNS、あるいは一時帰国をしてもらうなど、さまざまな工夫が必要になるでしょう。しかし、無事に協議ができて合意に至ったとしても、その後の手続きに特別な注意が必要です。

 

2. 日本の「印鑑証明書」の代わりとなる書類の準備

 

遺産分割協議がまとまったら、その内容を記した「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員が署名し、実印による捺印をする必要があります。

日本国内に住所を置いて、印鑑登録をしている相続人の場合は、印鑑証明書を取得して手続きを進めることができます。しかし、日本国内に住所がない海外在住の相続人の場合は、注意が必要です。 日本の印鑑証明書を取得することができないため、その代わりとなる公的な証明書が必要となります。

主に必要となるのは、以下の2種類の書類です。

  1. 署名証明書(サイン証明書)

    • これは、遺産分割協議書にされた署名が、確かに本人のものであることを証明する書類です。日本の印鑑証明書に代わるものとして使用されます。

    • 現地の日本大使館または領事館で発行してもらうことができます。

    • 大使館・領事館へは、事前に電話などで連絡を取り、必要な書類(パスポートなど)を忘れずに持参してください。

  2. 在留証明書

    • 署名証明書には、その相続人の「署名」が本人のものであることは証明されますが、「住所」の記載がありません。

    • そのため、現在の住所を証明する書類として、別途「在留証明書」も併せて取得する必要があります。これも、現地の日本大使館または領事館で発行されます。

 

3. 「署名証明書」には2つのタイプがある?

 

署名証明書には、大きく分けて「単独型」と「合綴(がってつ)型」の2種類があります。どちらのタイプが必要かは、書類の提出先(金融機関、法務局など)の指示によって異なります。事前に必ず確認するようにしましょう。

  • 単独型: 署名証明書単体で、その署名が本人であることを証明するものです。遺産分割協議書とは別に発行されます。

  • 合綴型: 遺産分割協議書そのものに署名・サイン証明書が一体となって「割印」が押されるタイプです。書類と証明書が一体であることで、より確実な証明となります。

どちらが必要か不明な場合は、提出先に確認するか、念のため両方のパターンを取得しておくのが安全です。

 

4. 書類が揃ったら、名義変更・所有権移転へ

 

上記の証明書が全て揃い、遺産分割協議書が完成したら、ようやく預貯金等の名義変更や、不動産の所有権移転登記といった具体的な手続きに進むことができます。

これらの手続きは時間もかかり、非常に面倒ですので、相続人の中に海外在住の方がおられる場合は、ご自身の想いを明確にした「有効な遺言書」をあらかじめお作りになることを強くお勧めします。


 

未来を見据えた準備が、家族の絆を守る鍵

 

相続人が海外に住んでいる場合、遺言書がない状態での手続きは、想像以上に時間と手間、そして費用がかかる複雑なものとなります。これは、残されたご家族にとって大きな負担となりかねません。

しかし、「有効な遺言書」があれば、この壁を大きく低くすることができます。 遺言書は、財産の分け方を明確にするだけでなく、海外にいる大切なご家族が、遠く離れていてもスムーズに手続きを進められるよう、道筋を示す羅針盤となるのです。

故人の意思が明確であれば、面倒な署名証明書の取得や、国際的なやり取りの負担を大幅に軽減できる可能性があります。

ご自身のもしもの時に、遠く離れたご家族が困らないよう、そして大切な家族の絆が手続きで複雑になることなく、穏やかに未来へ進んでいけるよう、今から「遺言書」という形で想いを形にしてみませんか。

私たちは、複雑な国際相続の知識を活かし、皆様の未来への準備を全力でサポートいたします。どうぞお気軽にご相談ください。


遺言書は「想い」も残せる、家族への手紙

遺言書と聞くと、「財産の分け方を決める、硬い書類」というイメージをお持ちかもしれません。もちろん、法的効力を持つ重要な文書ですが、実はそれだけではありません。遺言書には、「付言(ふげん)」という形で、あなたの「想い」や「メッセージ」を家族に伝えることができる、温かいスペースがあるのです。

今回は、この付言の役割と書き方について、詳しくご紹介します。

 

1. 遺言書の「付言」とは?その役割と書き方

 

付言とは、公正証書遺言書の最後に記載される、遺言者(故人)から家族や関係者へのメッセージのことです。通常、約A4用紙1枚程度の分量で、自分の家族への率直な想いをつづることができます。

付言に書かれた内容には、法的効力はありません。 例えば「相続財産を〇〇に全て残す」という部分が遺言の法的効力を持つ部分であるのに対し、付言は「なぜそう決めたのか」「家族にどうしてほしいか」といった、気持ちの部分を伝える役割を担います。

しかし、この法的効力がないからこそ、付言は非常に重要な意味を持ちます。

 

2. 付言が「争族」を防ぐカギとなる理由

 

付言の最大の役割は、残された家族間の「争族」を防ぐことです。

例えば、遺言書で特定の相続人の遺留分(法律で保障された最低限の相続割合)を配慮しない内容(例:相続財産の全てを妻に残す)を記す場合、遺留分を侵害された相続人から不満やトラブルが生じる可能性があります。

このような場合に、付言にその理由や背景を丁寧に記すことで、家族の理解を促すことができます。

【付言の例文】 「私が会社を立ち上げた時は、何もかもが手探りで、本当に大変な苦労を〇〇(妻の名前)と一緒に乗り越えてきました。子供たちには申し訳ない気持ちもありますが、〇〇への感謝の気持ちを込めて、私の相続財産の全てを〇〇に残したいと考えています。これからは家族みんなで仲良く助け合い、幸せに暮らしてくれることを心から願っています。」

このように、遺産配分の理由や、家族への感謝、これからの願いなどを記すことで、残された家族は遺言者の真意を理解しやすくなります。 法的な効力はなくても、故人の温かい言葉は、法律の条文以上に家族の心を和ませ、絆を深める力を持っているのです。

 

3. 付言は「故人からのラブレター」や「自分史」にもなる

 

付言は、形式にとらわれず、あなたが家族に伝えたいことを自由に書ける場所です。

  • 故人の最後の「ラブレター」として: 特に配偶者へ向けて、共に歩んだ人生への感謝や愛情を綴ることは、残された配偶者にとって何よりの心の支えとなるでしょう。まさに、故人からの「最後のラブレター」として、深く心に響くメッセージを残すことができます。

  • 「自分史」や「家族へのメッセージ」として: 子供たちや孫たちへ、自身の人生観、大切にしてきたこと、伝えたい教訓などを記すことも可能です。また、元気なうちに書ききれなかったことや、日頃はなかなか伝えられない感謝の気持ちを綴るのも良いでしょう。

付言は、法的拘束力がないからこそ、あなたの個性や人間性が滲み出る、温かいメッセージを残せる場所なのです。

 

4. 付言を書く際の注意点

 

基本的に何を書いても自由ですが、いくつか心に留めておきたい点があります。

  • ネガティブな内容は避ける: 文字として残るものですから、特定の相続人への誹謗中傷や、不平不満、恨み言など、残された家族の心を傷つけるような内容は避けるべきです。かえってトラブルの火種になりかねません。

  • 誤解を招く表現に注意: 法的効力がないとはいえ、あまりに曖牲な表現や誤解を招くような書き方は避けた方が無難です。

  • あくまで「想いを伝える」場: 「この財産は〇〇に譲る」といった法的な指示は、付言ではなく、遺言の本文に明確に記載するようにしましょう。

​遺言書は、あなたの財産をどう分けるかだけでなく、「あなたの人生」そして「家族への深い愛情」を伝える大切な手段です。特に「付言」は、法的な効力は持たないながらも、残された家族の心に深く刻まれる、かけがえのないメッセージとなります。

あなたの最期の言葉が、家族間の絆を強め、未来の彼らが笑顔でいられるための温かい道しるべとなるよう、ぜひ付言にあなたの本当の想いを綴ってみませんか。もし書き方に迷われたら、私たち専門家がお手伝いいたします。お気軽にご相談ください。

相続は必ず起こる。「こんな状況だけど、相続放棄ってできるのかな?」そう疑問に思っているあなたへ。

相続が発生したとき、「もしかして借金があるかも…」「財産管理が大変そう…」など、様々な理由で「相続放棄」を検討する方は少なくありません。しかし、相続放棄は重要な手続きであるにも関わらず、多くの方が誤った知識や勘違いを持っています。

今回は、相続放棄に関してよくある誤解をQ&A形式で解説し、正しい知識をお伝えします

 

Q1: プラスの財産が少しでもあると、相続放棄はできない?

A: 答えはバツです。 相続放棄は、負債(借金など)がプラスの財産を上回る場合だけでなく、「相続に関わりたくない」といった理由でも可能です。 【ただし要注意!】 故人の財産の一部でも勝手に使ったり、売却したりすると、「単純承認した」とみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。これを「法定単純承認」と言います。

 

Q2: 3ヶ月の期限を過ぎたら、もう相続放棄はできない?

A: 基本的にはバツ(非常に難しいが、例外あり)です。 相続放棄の申述期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内と民法915条で定められています(熟慮期間)。この期間は、利害関係人又は検察官の請求により、家庭裁判所において伸長することができます。相続人は、相続の承認、放棄する前に、相続財産の調査をすることができます。

 

Q3: 遺産分割協議で「私は何もいりません」と言えば、相続放棄になる?

A: 答えはバツです。 遺産分割協議での「いらない」という意思表示は、あくまで相続人同士の合意に過ぎません。これは法律上の「相続放棄」とは全く異なります。相続放棄は、必ず家庭裁判所に申述(申し立て)することで初めて法的な効力が発生します。遺産分割協議で「いらない」と言っても、負債の相続からは逃れることはできません。

 

Q4: 他の相続人が相続放棄したら、自分も自動的に相続放棄になる?

A: 答えはバツです。 相続放棄は各相続人が単独で、個々に行う手続きです。誰かが相続放棄をしたからといって、他の相続人が自動的に放棄したことにはなりません。 ちなみに、民法第939条によって「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」と定められています。つまり代襲しません。(例:放棄者の子は相続人にならない次順位の相続人に相続権が移る

 

Q5: 内縁の妻(夫)は相続人ではないから、相続放棄の必要がない?

A: 答えはマルです。 日本の法律では、法律上の婚姻関係がなければ、内縁の配偶者には相続権がありません。したがって、相続人ではないため、そもそも相続放棄をする必要もありません。ただし、共同で借りていた住宅ローンの連帯保証人になっているなど、別の形で債務を負っている可能性がないか確認は必要です。

 

Q6: 生命保険金を受け取ったら、相続放棄はできない?

A: 答えはバツです。 生命保険金は、受取人固有の財産とみなされることが多く、被相続人の遺産とは別枠で扱われます。そのため、生命保険金を受け取ったとしても、原則として相続放棄の妨げにはなりません。生命保険金は、民法上の相続財産(遺産分割の対象となる財産)には含まれませんが、相続税の計算上は「みなし相続財産」として相続税の課税対象となります。

 

Q7: 故人の預金で葬儀費用を払ってしまったら、相続放棄できない?

A: 基本的にはバツです(ただし注意が必要)。 社会通念上相当な範囲での葬儀費用を故人の預貯金から支払う行為は、一般的に「単純承認」とはみなされず、相続放棄は可能です。しかし、あまりに高額な費用を支出したり、葬儀以外の目的で故人の財産を費消したりした場合は、単純承認とみなされるリスクがあります。領収書を保管するなど、適切に記録を残しましょう。


相続放棄は、負債から身を守るための重要な制度ですが、一度受理されると原則として撤回できません。(民法95条:錯誤、民法96条:詐欺・強迫、民法4条以下:制限行為能力者)に該当する瑕疵があれば、相続の承認や放棄も取り消すことができます また、上記のように誤解も多く、手続きを間違えると後で大きなトラブルに発展する可能性があります。

 

「自分のケースでは相続放棄ができるのか?」「手続きはどうすればいいのか?」 もし少しでも不安を感じたら、一人で悩まず、行政書士などの専門家にご相談ください。 あなたの状況を正確に把握し、最適な解決策をご提案いたします。

 

 

相続は、大切な方を亡くされた悲しみの中で直面する、避けては通れない手続きです。

しかし、「いつかやればいい」と放置してしまうと、時間とともに手続きは驚くほど複雑化し、余計な時間と費用、そして精神的な負担がかかってしまうことがあります。

特に、土地や建物が故人名義のまま放置されがちです。例えば、亡くなられた方(Aさん)名義の建物に、相続人であるお子さん(Bさん)が住み続けているケースを考えてみましょう。Bさんが亡くなると、今度はBさんの相続人(Cさん)が、Aさんが亡くなった時に行うべきだった相続手続きまで引き継いで行わなければならなくなります。世代をまたぐと、関係者は増え、手続きはさらに複雑になり、思わぬ争いにつながる可能性も出てきます。

相続には、「こうだと思っていたら実は違った」という誤解が数多く存在します。


相続にまつわるよくある誤解

ここでは、多くの人が信じがちな相続の誤解と、その正しい知識をご紹介します。

 

Q: 子の死亡で相続人が親だけの場合、相続手続きは不要?

A: 答えはバツです。 この場合も、当然ながら相続人を確定し、財産を親に名義変更するなどの相続手続きが必要です。

 

Q: 養子が死亡した場合、実父母には相続権はない?

A: 普通養子の場合はバツです。 普通養子縁組の場合、養子は実父母との親子関係も継続しているため、実父母、養父母それぞれに相続権があります。ただし、特別養子縁組の場合は実父母の相続権はありません。

 

Q: 「連れ子」にも相続権がある?

A: この場合、例えば、お母さんの連れ子と再婚相手との間で養子縁組しない限り、相続権はありません。 法律上の親子関係がなければ、たとえ実の親子のように暮らしていても、相続権は発生しません。

 

Q: 内縁関係は、長期にわたれば相続権が発生する?

A: 内縁関係では相続権はありません。 日本の法律では「法律婚主義」が採用されており、婚姻関係になければ配偶者としての相続権は認められません。

 

Q: 公正証書遺言にすれば、公証役場が無料で遺言執行してくれる?

A: 答えはバツです。 公正証書遺言は、その内容が有効であると公的に証明される強力な遺言書ですが、作成後の遺言執行は公証役場が行うわけではありません。遺言執行者を指定しておくか、相続人が手続きを行う必要があります。

 

Q: 死亡後20年経つと亡くなった人の財産は、同居している人の所有となる?

A: 答えはバツです。 相続には時効という概念はありますが、「時間が経てば自動的に同居している人の所有になる」といった民法の規定はありません。故人名義のままの財産は、原則として相続人の共有状態が続きます。


複雑化する前に、専門家への相談が解決の鍵

相続は、家族関係、財産の種類、そして法律が複雑に絡み合うデリケートな問題です。時間が経てば経つほど、関係者が増えたり、必要な書類が揃いにくくなったりと、手続きの難易度は跳ね上がります。

これらの誤解を解消し、スムーズな相続手続きを進めるためには、専門家の知識とサポートが不可欠です。 何から手をつけていいか分からない、複雑な状況で悩んでいる、といった場合は、ぜひお気軽にご相談ください。

 

適切な専門家に相談することは、後々のもやもやした気持ちを残さず、大切なご家族が安心して未来へ進むための、最も確実な一歩となるでしょう。

「相続放棄」は3ヶ月以内に!手続きと期限を解説 

民法第915条(相続の承認又は放棄をすべき期間) 相続人が、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない、と定められています。これが、よく言われる「3ヶ月の熟慮期間」の根拠となる条文です。

民法第938条(相続放棄の方式) 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない、と定められています。つまり、口頭や書面で第三者に意思表示するだけでは足りず、必ず家庭裁判所を通じて手続きをしなければならない、という根拠となる条文です。

民法第939条(相続放棄の効力) 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす、と定められています。これにより、借金などの負の遺産も引き継がずに済むことになります。

相続放棄は、相続人が単独で家庭裁判所に申し立てる手続きです。他の相続人の同意は不要で、自分の意思で借金などの負の遺産を含め一切の財産を相続しない選択ができます。

これに対して、混同されがちな限定承認は、相続人が複数いる場合、共同相続人全員が共同で家庭裁判所に申し立てなければなりません。一人でも反対する相続人がいると手続きを進めることはできません。限定承認は、プラスの財産の範囲内で借金などのマイナスの財産を清算し、余剰があれば相続するという制度です。

 

【相続放棄が他の相続人に与える影響】

ただし、ある相続人が相続放棄をすると、他の相続人に大きな影響が出ることがあります。

  1. 同順位の相続人の相続分が増える: もし、同じ順位の相続人(例えば兄弟姉妹が複数いる場合)のうちの一人が相続放棄をすると、その人が相続するはずだった財産や借金が、放棄しなかった他の同順位の相続人に引き継がれることになります。

    • 例:相続人が兄弟3人の場合、1人が相続放棄をすると、残りの2人の兄弟の相続分は3分の1から2分の1に増えます。

  2. 次順位の相続人に相続権が移る: 最も重要な影響の一つです。ある相続順位(例えば第一順位の子)にいる全員が相続放棄をした場合、相続権は次の順位の相続人へと移ります。

    • 相続人の順位:

      • 常に相続人:配偶者(亡くなった人に配偶者がいれば必ず相続人)

      • 第一順位:亡くなった人の(子が亡くなっていれば孫など)

      • 第二順位:亡くなった人の直系尊属(父母や祖父母など。子がいない、または全員放棄した場合)

      • 第三順位:亡くなった人の兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっていれば甥・姪。子も直系尊属もいない、または全員放棄した場合)

      • もし被相続人に多額の借金があり、子全員が相続放棄をすると、次は亡くなった人の父母(第二順位)が相続人になります。父母も放棄すると、兄弟姉妹(第三順位)が相続人になります。

​​​遺言書がない場合の相続は、民法に定められたルールに沿って進められます。しかし、この民法上の相続手続きは、非常に複雑で専門的な判断が求められる場面が少なくありません。

そのため、ご自身だけで進めようとすると、思わぬ落とし穴にはまったり、後になって「あの時こうしておけばよかった」ともやもやした気持ちが残ってしまったりすることもあります。

大切なご家族との絆を守り、円満な相続を実現するためにも、専門家に相談しながら手続きを進めることが、結果として心残りなくスムーズな解決へと導く近道となります。

「公正証書遺言を作りたいけれど、費用がどれくらいかかるのか不安…」そう思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。公正証書遺言の作成には公証役場の手数料がかかります。

今回は、公正証書遺言の作成にかかる公証役場の手数料について、その計算方法や内訳を解説します。

 

目的価額 手数料
100万円以下 5,000円
100万円を超え200万円以下 7,000円
200万円を超え500万円以下 11,000円
500万円を超え1,000万円以下 17,000円
1,000万円を超え3,000万円以下 23,000円
3,000万円を超え5,000万円以下 29,000円
5,000万円を超え1億円以下 43,000円
1億円を超え3億円以下 43,000円 +5000万円までごとに13,000円を加算
3億円を超え10億円以下 77,000円 + 5000万円までごとに13,000円を加算
10億円を超える場合 182,000円 +5000万円までごとに13,000円を加算

遺言によって財産を受け取る人(相続人または受遺者)ごとに、その受け取る財産の価額(目的価額)に応じて手数料を算出し、それらを合算して全体の基本手数料とします。

具体例を見てみましょう。

【例】遺言者が総額7,000万円の財産を、以下のように遺贈・相続させる場合

  • 妻に不動産と預貯金 計3,000万円を相続させる

  • 長男に預貯金 2,000万円を相続させる

  • 長女に株式 1,500万円を遺贈する

  • 友人に現金 500万円を遺贈する

この場合、それぞれの目的価額に応じて手数料を計算し、合算します。

 

1. 妻(目的価額 3,000万円)

  • 「1,000万円を超え3,000万円以下」の範囲に該当

  • 手数料:23,000円

2. 長男(目的価額 2,000万円)

  • 「1,000万円を超え3,000万円以下」の範囲に該当

  • 手数料:23,000円

 

3. 長女(目的価額 1,500万円)

  • 「1,000万円を超え3,000万円以下」の範囲に該当

  • 手数料:23,000円

 

4. 友人(目的価額 500万円)

  • 「200万円を超え500万円以下」の範囲に該当

  • 手数料:11,000円


 

【基本手数料の合計】

上記をすべて合算します。 23,000円(妻)+ 23,000円(長男)+ 23,000円(長女)+ 11,000円(友人)= 80,000円

 

【遺言加算の適用】

この遺言全体の目的価額の合計額は、3,000万+2,000万+1,500万+500万=7,000万円です。

全体の財産が1億円以下の場合、「遺言加算」として11,000円が加算されます。

 

【このケースの公証役場手数料(基本手数料+遺言加算)】

80,000円(基本手数料合計)+ 11,000円(遺言加算)= 91,000円

この91,000円が、このケースにおける公正証書遺言の公証役場への基本的な手数料となります。これに加えて、遺言書の枚数に応じた正本・謄本作成手数料や、出張をお願いした場合は出張加算などが別途加わります。                     

その他の手数料

祭祀主宰者の指定:11,000円。

目的価額が1億円以下の場合:11,000円加算。

遺言の撤回:原則11,000円。

病床執務の場合:通常手数料の1.5倍加算。

「個別の状況に応じた正確な情報につきましては、公証役場または公証人に直接お問い合わせいただけますようお願い申し上げます。

 

公正証書遺言は「安心料」です。

公証役場の手数料の他に、証人への謝礼や行政書士などの専門家への報酬も必要になります。これらの費用は一見すると負担に感じるかもしれませんが、公正証書遺言は無効になるリスクが極めて低く、家庭裁判所の検認も不要です

ご不明な点やご不安なことがあれば、ぜひ専門家にご相談ください。

 

「遺留分」とは何か?

遺留分とは、亡くなった方(被相続人)の財産について、特定の法定相続人(兄弟姉妹は除く)に法律で保障された最低限の取り分のことです。

たとえ遺言書で「全財産を特定の人に贈与する」と書かれていたとしても、遺留分を持つ相続人は、その最低限の取り分を請求する権利があります。これは、残されたご家族の生活保障や、相続人間での公平性を保つための重要な制度です。

【遺留分を持つ人】

  • 配偶者

  • 子(子が亡くなっている場合は孫などの直系卑属)

  • 親(親が亡くなっている場合は祖父母などの直系尊属)

※兄弟姉妹には遺留分がありません。

遺留分の割合は、相続人の構成によって異なります。

 

もし、遺言や生前贈与などによって、ご自身に保障されたはずの遺留分が侵害されていると分かった場合、「遺留分侵害額請求」を行うことができます。この請求によって、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを、侵害した相手に対して求めることが可能です。

 

■ 遺留分の計算早見表

相続人の構成 遺留分の対象となる相続人 遺留分の割合(遺産全体に対する割合)
配偶者と子 配偶者・子ともに対象 合計で1/2(→ 各人が法定相続分×1/2)
子のみ(配偶者なし) 子のみ対象 合計で1/2(→ 各人が法定相続分×1/2)
配偶者と直系尊属(例:親) 配偶者・親ともに対象 合計で1/2(→ 各人が法定相続分×1/2)
直系尊属のみ(配偶者・子なし) 直系尊属のみ対象(例:父母) 合計で1/3(→ 各人が法定相続分×1/3)
配偶者のみ(子・親なし) 配偶者のみ対象 合計で1/2(→ 法定相続分×1/2)
兄弟姉妹のみ(配偶者・子・親なし) 兄弟姉妹には遺留分なし 対象外

■ 計算例

例1:相続人が配偶者と子ども2人の場合

  1. 法定相続分:

    • 配偶者:1/2

    • 子ども:1/2を子2人で → 各1/4

  2. 遺留分割合:

    • 配偶者:1/2 × 1/2 = 1/4

    • 子ども:1/4 × 1/2 = 1/8(×2人分)

    •  

期限にご注意!遺留分請求の「時効」

遺留分侵害額請求権には、非常に重要な期限(時効)があります。

  1. 「相続の開始」及び「遺留分を侵害された事実」を知った時から

    • 1年

  2. 相続開始の時から

    • 10年

例えば、亡くなったことを知り、かつ遺言書の内容で自分の遺留分が侵害されていると知った日から1年以内に請求しないと、その権利は時効によって消滅してしまいます。また、たとえその事実を知らなくても、相続開始から10年が経過すると、権利を行使できなくなってしまいます。この期限を過ぎてしまうと、せっかくの権利を行使できなくなるため、注意が必要です。

残されたご家族が無用な争いを起こし、大切な時間やお金を費やさないためにも、遺留分を考慮した遺言書は大変重要です。


 

 

法務局の遺言書保管制度のメリットと申請ステップ

法務局で保管する4つのメリット

  1. 法務局が厳重に保管 遺言書が盗難、紛失、改ざんされるリスクがなくなります。また、自宅で保管していると、地震や火災などの災害で失われる心配もありません。

  2. 手数料は申請時のみ3,900円 保管にかかる費用は、申請時の手数料3,900円(遺言書1通につき)のみ。その後の保管期間に応じて費用が増えることはありません。

  3. 家庭裁判所の「検認」が不要 通常、自筆で書かれた遺言書は、相続が開始した際に家庭裁判所で「検認」という手続きが必要になります。しかし、この制度を利用して保管された遺言書は、検認が不要です。これにより、相続開始後の手続きがスムーズに進み、ご家族の負担を大きく軽減できます。

  4. 死亡時の通知制度で発見漏れ防止 遺言書が法務局に保管されていることを、ご家族が知らないまま相続が進んでしまう…という事態を防げます。相続開始後、特定の方(推定相続人など)が遺言書の有無を照会した際、遺言書が保管されていれば、その旨が通知される仕組みがあります。


ご注意いただきたい点

法務局の職員が遺言書の形式(日付や署名など)に不備がないかを確認してくれますが、これはあくまで形式面のみです。遺言書の内容が法的に有効であるか、あるいは遺言者ご本人の真意に基づくものかを法務局が保証するものではありません

また、遺言書の内容に関する具体的な相談には応じてもらえませんので、内容の作成に不安がある場合は、事前に専門家への相談を検討しましょう。


遺言書保管申請の5つのステップ

では、実際に法務局で遺言書を保管してもらうためのステップを見ていきましょう。

ステップ 1:遺言書を作成する

  • ご自身で遺言書を作成します。自筆証書遺言のルール(全文自筆、日付、氏名、押印)に沿って作成することが重要です。

ステップ 2:遺言書の保管申請書を作成する

  • 法務局指定の保管申請書を作成します。

ステップ 3:添付書類等を準備する

  • 以下の書類や費用を準備します。
    • 顔写真付きの官公署から発行された身分証明書(マイナンバーカード、運転免許証など)
    • 本籍と戸籍の筆頭者の記載がある住民票の写し
    • 3,900円分の収入印紙(遺言書の保管申請の手数料として必要です)

ステップ 4:法務局に予約する

  • 遺言書を保管したい法務局(遺言書保管所)へ、事前に予約を入れます。

ステップ 5:法務局(遺言書保管所)に行く

  • 予約した日時に、必ずご本人(遺言者本人)が法務局へ出頭し、提出します。病気などで本人が出頭できない場合は、残念ながらこの制度は利用できません。

​​【推論】

法務局の遺言書保管制度は、遺言書の紛失や改ざんを防ぎ、検認が不要になるという大変便利な制度です。しかし、この制度は、遺言書を法務局が厳重に保管するものの、遺言作成時におけるご本人の意思能力の確認や、第三者からの影響がないかの確認を、公証人のような専門家が行うわけではありません。

そのため、将来、もしご家族の間で「本当に本人の意思で書かれた遺言書なのか」といった疑念が生じる可能性が、残念ながらゼロではないのが実情です。

より確実に、そしてご家族間の無用な争いを避けるという意味では、公証人が遺言書の内容を確認し、証人2人が立ち会う公正証書遺言が、非常に強力な手段となります。公正証書遺言は、公証人という法律の専門家が、遺言者ご本人の意思を直接確認し、遺言の内容が法的に有効であるかを確認しながら作成するため、後々のトラブル防止に絶大な効果を発揮します。

ご家族の安心と、遺言の確実な実現を最優先に考えるのであれば、公証役場で作成する公正証書遺言の検討を強くお勧めいたします。

「自分が亡くなった後も、家族が争うことなく、助け合って仲良く暮らしてほしい」。

これは、誰もが心から願うことではないでしょうか。

しかし、幼い頃は仲良しだった兄弟姉妹も、結婚やそれぞれの人生の変化を経て、少しずつ関係性が変わっていくことは少なくありません。そして、そんな変化が顕著に表れるのが、残念ながら「相続」の場面だったりします。これは避けられない事実でもあります。

だからこそ、ご自身の願いである「家族助け合って」を実現するために、「遺言書」を残したいと願う方が、近年ますます増えています。

「どんな遺言書にしようか。法務局で保管してくれる制度も始まったし、やっぱり費用のかからない自筆証書遺言にしようか」――そう考えられる方も多いでしょう。

遺言書には大きく分けて、公正証書遺言自筆証書遺言、そしてほとんど使われることのない秘密証書遺言の3種類があります。

この中で、自筆証書遺言と公正証書遺言の最も大きな違いは、公正証書遺言には公証人証人2人が立ち会うということです。

「この公証人や証人って、一体何のためにいるのだろう?」と疑問に感じる方もいらっしゃるかもしれません。

公正証書遺言の「証人」が果たす重要な役割

公正証書遺言の作成において、公証人と証人2人が果たす役割は、遺言書が遺言者本人の真意に基づいて、かつ有効に作成されたことを証明し、後々の「争い」や「疑念」を防ぐことにあります。

まず、公証人が遺言書の内容を遺言者本人に読み上げ、「ご本人様ですか?」「ご住所はここで間違いないですか?」「遺言書の内容はこれで間違いありませんか?」などと確認します。

これは、人違いではないか、そして遺言者ご本人の認知機能がしっかりしているか、他者からの不当な影響を受けていないかなどを確認するためです。

例えば、もしここで遺言者が「いや〜、長男がこう書けっていうもんだから、こう書いたんだよ…」などと言ってしまえば、その場でその遺言書は無効となり、作成は進められません。

この公証人と遺言者のやり取りの全てを、証人2人が目の前でしっかりと見ています。 これにより、後から「親父は認知症だったから、無理やり書かされたに違いない」といった疑念や主張を、第三者である証人が「そんなことはなかった」と証言できるため、遺言書の有効性が争われるリスクを大幅に減らすことができるのです。

ちなみに、証人は守秘義務のある行政書士がお勧めです。 大切な遺言の内容を、他人にむやみに話されたくはないですもんね。

 

このような理由から、せっかく遺言書を残すのであれば、後々家族間に無用な争いや疑念を生じさせないためにも、公正証書遺言での作成を強くお勧めいたします。

ご家族が助け合って暮らす未来のために、ぜひ一歩を踏み出してみませんか。 遺言書作成に関するご相談は、やまもと行政書士事務所にどうぞお任せください。

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