遺産分割協議は相続人全員の合意がなければ成立しません。
有効な遺言書がない場合、原則として民法で定められた「法定相続分」に従って遺産を分割することになります。これは相続の最も基本的なルールの一つです。すべての相続財産は、まず「共有」の状態となる そして、もう一つの重要なポイントは、遺言書がない場合、故人の残したすべての相続財産(不動産、預貯金、有価証券など)は、個々の相続人に直接「この財産はあなたのもの」と割り当てられるのではなく、いったん相続人全員の「共有」の状態になるということです。遺産が一旦共有状態になるのは、相続人それぞれの権利を平等に保護するためです。ここから、相続人全員で「遺産分割協議」という話し合いを行い、「この不動産は長男が、この預貯金は長女が」といった形で、共有状態を解消し、具体的な財産の分け方を決めていくことになります。
その話し合いの場が「遺産分割協議」であり、そこで合意した内容をまとめるのが「遺産分割協議書」です。この遺産分割協議書にはそれぞれの財産を具体的に誰が取得するのか書かれています。
この「共有」とは、例えるなら、それぞれの相続人が財産全体に対して、法定相続分に応じた「持ち分」を持っている状態です。例えば、法定相続分が2分の1の相続人は、遺産全体の2分の1の「持ち分」を持っていることになります。しかし、どの財産を具体的に取得するかは、まだ決まっていません。
有効な遺言書がない場合でも、必ずしも法定相続分通りに分割しなければならないわけではありません。相続人全員の合意があれば、法定相続分とは異なる割合で遺産を分割することも可能です。
遺産分割協議で合意するために、相続人全員が物理的に一堂に会する必要は特にありません。最も重要なのは、相続人全員が遺産分割の内容に同意することです。
まとめると、
遺言書がある場合: その遺言書の内容が優先されます(ただし、遺留分には注意が必要)。
遺言書がない場合:
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原則: 法定相続分通りに分割する。
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例外: 相続人全員で遺産分割協議を行い、全員の合意があれば、法定相続分とは異なる割合で分割することも可能。となります。
次に寄与分をみていきます。
寄与分とは? 民法第904条の2に定められているもので、共同相続人の中に、被相続人の財産の維持または増加に「特別の寄与」をした人がいた場合に、その寄与分を相続財産からあらかじめ控除し、残りを法定相続分などで分けることで、実質的に寄与した人の相続分を増やす制度です。
「親の介護を献身的に行った」「家業を手伝い、無償で財産増加に貢献した」といったケースがこれに該当すると考えられます。
法定相続分から個別の事情を調整する寄与分の制度は存在しますが、その適用には高いハードルがあり、実際に遺産分割協議でスムーズに認められることは少ないのが現実です。感情的な対立や証明の難しさから、最終的には法的な基準である法定相続分で落ち着く、という状況がよく見られます。
もし、特定の相続人の寄与を具体的に遺産分割に反映させたいのであれば、生前のうちに遺言書でその旨を明確にしておくことが、最も確実な方法となります。
次にみていくのは不動産の相続です。
遺産分割協議で不動産を法定相続分通りに分けると、多くの場合「共有名義」になります。
共有名義の不動産: 遺産分割協議で合意に至らず、相続人が複数いる不動産をそのままにしておくと、自動的に法定相続分に応じた共有状態になります。この場合、例えば「長男が2分の1、次男が2分の1」といった共有持分を持つことになります。「預貯金は◎◎、不動産は〇〇」といったように、特定の財産を特定の相続人が単独で取得する方が、後のトラブルは少なくなります。特に遠方に住んでいて不動産を利用しない相続人にとっては、現金や預貯金で受け取る方がはるかに合理的でしょう。
相続人の増加と関係性の希薄化
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共有名義のまま最初の相続人が亡くなると、その持分がさらに次の相続人(子、つまり被相続人から見ると孫など)に引き継がれます。
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世代が進むにつれて共有者の数は雪だるま式に増えていき、それぞれの共有持分はどんどん細分化されます。
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面識のない遠い親戚が共有者になったり、連絡先すら分からない人が出てきたりすることで、話し合い自体が極めて困難になります。
不動産が売却できない場合、どうなる?
親御さんが住んでいた不動産を相続人が取得せず、売却して現金で分けたい、というケースは非常に多いです。しかし、その不動産がなかなか売れない場合は、いくつかの選択肢を検討することになります。どの方法が最適かは、不動産の状況、相続人同士の関係、そして相続人それぞれの経済状況によって異なります。
今回は、有効な遺言書がない場合の相続の基本的なルールから、法定相続分、そしてすべての相続財産が一時的に「共有」となる初期状態について解説しました。相続は、ご自身の財産が関わるだけでなく、ご家族間の関係性も大きく影響するため、非常に複雑でデリケートな問題です。
「うちはどうなるんだろう?」「この場合はどうすればいいんだろう?」
そう考えても、なかなか良い解決策が思い浮かばない。 ましてや、このようなデリケートな財産の話し合いは、親しい友人や知人に相談しにくいものです。いざという時に、心から信頼して相談できる相手がいないと感じる方も少なくありません。
そんな時こそ、どうか一人で抱え込まず、専門家を頼ってください。
私たち相続の専門家は、個々の家族構成や財産の状況、そしてご家族それぞれの気持ちを丁寧にヒアリングし、法的な知識と豊富な経験に基づいた「最善の良案」を共に探すお手伝いをいたします。
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