「相続人が海外に住んでいるのだけれど、どうしたらいい?」
近年、国際化が進む中で、このようなご相談をいただく機会が非常に増えてきています。大切なご家族との相続手続きは、ただでさえ多くの書類や専門知識が必要ですが、相続人の中に海外在住の方がいらっしゃると、さらに複雑な手続きや時間が必要となることがあります。
今回は、相続人が海外にいる場合の「手続きの壁」と、その対処法、そして注意点について詳しく解説します。
1. 有効な遺言書がない場合の「遺産分割協議」が最初の関門
もし故人(被相続人)が有効な遺言書を残していない場合、相続手続きは原則として、相続人全員で遺産分割協議を行い、その内容に合意する必要があります。
海外にいる相続人と連絡を取るだけでも、国際電話やSNS、あるいは一時帰国をしてもらうなど、さまざまな工夫が必要になるでしょう。しかし、無事に協議ができて合意に至ったとしても、その後の手続きに特別な注意が必要です。
2. 日本の「印鑑証明書」の代わりとなる書類の準備
遺産分割協議がまとまったら、その内容を記した「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員が署名し、実印による捺印をする必要があります。
日本国内に住所を置いて、印鑑登録をしている相続人の場合は、印鑑証明書を取得して手続きを進めることができます。しかし、日本国内に住所がない海外在住の相続人の場合は、注意が必要です。 日本の印鑑証明書を取得することができないため、その代わりとなる公的な証明書が必要となります。
主に必要となるのは、以下の2種類の書類です。
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署名証明書(サイン証明書)
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これは、遺産分割協議書にされた署名が、確かに本人のものであることを証明する書類です。日本の印鑑証明書に代わるものとして使用されます。
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現地の日本大使館または領事館で発行してもらうことができます。
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大使館・領事館へは、事前に電話などで連絡を取り、必要な書類(パスポートなど)を忘れずに持参してください。
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在留証明書
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署名証明書には、その相続人の「署名」が本人のものであることは証明されますが、「住所」の記載がありません。
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そのため、現在の住所を証明する書類として、別途「在留証明書」も併せて取得する必要があります。これも、現地の日本大使館または領事館で発行されます。
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3. 「署名証明書」には2つのタイプがある?
署名証明書には、大きく分けて「単独型」と「合綴(がってつ)型」の2種類があります。どちらのタイプが必要かは、書類の提出先(金融機関、法務局など)の指示によって異なります。事前に必ず確認するようにしましょう。
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単独型: 署名証明書単体で、その署名が本人であることを証明するものです。遺産分割協議書とは別に発行されます。
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合綴型: 遺産分割協議書そのものに署名・サイン証明書が一体となって「割印」が押されるタイプです。書類と証明書が一体であることで、より確実な証明となります。
どちらが必要か不明な場合は、提出先に確認するか、念のため両方のパターンを取得しておくのが安全です。
4. 書類が揃ったら、名義変更・所有権移転へ
上記の証明書が全て揃い、遺産分割協議書が完成したら、ようやく預貯金等の名義変更や、不動産の所有権移転登記といった具体的な手続きに進むことができます。
これらの手続きは時間もかかり、非常に面倒ですので、相続人の中に海外在住の方がおられる場合は、ご自身の想いを明確にした「有効な遺言書」をあらかじめお作りになることを強くお勧めします。
未来を見据えた準備が、家族の絆を守る鍵
相続人が海外に住んでいる場合、遺言書がない状態での手続きは、想像以上に時間と手間、そして費用がかかる複雑なものとなります。これは、残されたご家族にとって大きな負担となりかねません。
しかし、「有効な遺言書」があれば、この壁を大きく低くすることができます。 遺言書は、財産の分け方を明確にするだけでなく、海外にいる大切なご家族が、遠く離れていてもスムーズに手続きを進められるよう、道筋を示す羅針盤となるのです。
故人の意思が明確であれば、面倒な署名証明書の取得や、国際的なやり取りの負担を大幅に軽減できる可能性があります。
ご自身のもしもの時に、遠く離れたご家族が困らないよう、そして大切な家族の絆が手続きで複雑になることなく、穏やかに未来へ進んでいけるよう、今から「遺言書」という形で想いを形にしてみませんか。
私たちは、複雑な国際相続の知識を活かし、皆様の未来への準備を全力でサポートいたします。どうぞお気軽にご相談ください。