知られざる海の掃除屋:浚渫(しゅんせつ)工事って何?
川や海が汚れてきたな、浅くなったなと感じたことはありませんか?」
私たちが安心して暮らすため、そして豊かな自然を守るために、水面下で黙々と行われている大切な仕事があります。それが「浚渫(しゅんせつ)工事」です。
1. 浚渫工事ってどんなお仕事?
浚渫(しゅんせつ)とは?
一言でいうと、川底や海底に溜まった土砂やヘドロを取り除く工事のこと。「川や海の"おそうじ"」と考えると分かりやすいでしょう。
川や海は、時間とともに上流から流れてきた土砂や、生活排水などが原因で発生したヘドロがどんどん溜まっていきます。浚渫工事は、こうした堆積物を取り除き、水域の環境を改善するために行われます。
なぜ浚渫工事が必要なの?
この「おそうじ」が、実は私たちの安全と環境に直結する重要な役割を果たしています。
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1. 洪水対策:命を守る 川底が土砂で浅くなると、大雨が降ったときに川が流せる水の量が減ってしまいます。その結果、水が溢れ出しやすくなり、街に大きな被害をもたらす洪水の危険が高まります。浚渫は、川の深さを元に戻し、災害を防ぐために欠かせません。
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2. 船の安全な航行:物流を支える 港や船が通る航路が浅くなると、大きな船が海底に接触したり、座礁したりする危険が高まります。浚渫工事は、船が安全に航行できる深さを確保し、日本の物流を陰で支えています。
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3. 水質の改善:豊かな自然を取り戻す 川底や海底に溜まったヘドロは、悪臭の原因になったり、水中の酸素を奪ったりします。ヘドロを取り除くことで、悪臭の発生を抑え、魚やさまざまな水生生物が住みやすい、きれいな環境に戻すことができます。
2. 具体的な方法:どうやって掘るの?
水中で硬く溜まった土砂やヘドロを掘り出すために、専用の特殊な船や重機が使われます。
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グラブ浚渫船 巨大なクレーンのようなアームの先に付いた「グラブバケット」という大きなスコップで、海底の土砂を掴んで船に積み込む方法です。硬い土砂にも対応でき、精度高く掘削できます。
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ポンプ浚渫船 まるで「巨大な掃除機」のように、強力なポンプで土砂を水と一緒に吸い上げ、パイプを通して陸上や別の船まで送る方法です。主に砂や軟らかいヘドロの除去に使われます。
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バックホウ(水上ショベルカー) 陸上でよく見るショベルカーを、台船に乗せて水上で使えるようにしたものです。比較的浅い場所や、岸に近い場所の工事で活躍します。
3. 浚渫工事のその後:掘った土はどうなる?
取り除かれた土砂やヘドロ(浚渫土)は、そのまま捨てられるわけではありません。性質に応じて適切に処理・活用されます。
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再利用:質の良い砂や土は、新しい埋め立て地の造成や、建設現場の材料として有効活用されることがあります。
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処分:有害物質を含んでいたり、再利用が難しい汚染されたヘドロなどは、環境に影響が出ないよう、専用の処理施設で厳重に処分されます。
4. 浚渫工事は、普段私たちの目に触れることの少ない、建設業のなかでも一般的には分かりにくいお仕事かもしれません。
しかし、この地道な作業こそが、私たちの生活の安全(洪水からの防御)を守り、経済活動を支え、そして豊かな自然環境を次世代に引き継ぐために欠かせない、とても大切なお仕事なのです。