遺言書を作成する目的は、大切な家族のために財産の分け方を明確にし、将来の「争族(争いのある相続)」を防ぐことにあります
しかし、財産を法的にどう分けるか(遺言事項)だけを記載した遺言書は、かえって家族の感情的な対立を招くことがあります。なぜなら、遺言者の「想い」や「理由」が伝わらないからです。
そこで重要になるのが、法的な効力を持たない「付言事項(ふげんじこう)」です。
この記事では、付言事項の役割と、家族が遺言の内容に納得し、争族を回避するための具体的な4つの書き方と例文を行政書士の視点から解説します。
1. 付言事項とは?法的な「効力」と「役割」
「付言事項(ふげんじこう)」とは、主に遺言書の本文に記載する、法的な効力を持たないメッセージや補足的な説明などのことです。
法的効力がないのに、なぜ重要?
付言事項は、遺産分割の内容そのもの(法的な効力を持つ「遺言事項」)とは異なり、遺言者の想いや気持ちを伝えるために使われます。
その主な目的は、相続人や受遺者(遺産を受け取る人)が遺言の内容を感情的に理解し、受け入れることです。
特に、法定相続分と異なる遺産分割を行った場合など、一見不平等に見える分け方であっても、遺言者の真意を伝えることで、争い(争族)が起きるのを防ぐという、非常に重要な役割を果たします。
2. 争族を回避する!付言事項の4つの具体的な書き方と例文
付言事項に決まった形式はありませんが、以下の4つのパターンで想いを伝えることで、遺言の目的が達成されやすくなります。
1. 遺産分割の理由・補足説明を伝える
特定の相続人に多くの財産を相続させるなど、遺言の内容が一見不平等に見える場合の理由を説明するものです。これにより、他の相続人の納得を得やすくします。
2. 家族や関係者への感謝の気持ちを伝える
これまでの人生を振り返り、家族や世話になった方々へ感謝の気持ちを伝えます。
3. 相続人への願い・要望を伝える
相続人に対して、今後どのように暮らしてほしいか、遺言の内容以外でやってほしいことなどを伝えます。
4. 葬儀や納骨に関する希望を伝える
遺言事項(法的に効力があるもの)ではありませんが、遺言者が希望する葬儀の形式などを伝えます。
注意!葬儀の希望と「死後事務委任契約」の違い
付言事項として葬儀の希望を伝えることはできますが、これには法的な拘束力がない点に注意が必要です。遺言者が亡くなった後の事務を確実に行うためには、別の契約が必要になる場合があります。
付言事項の効果と限界
付言事項は、あくまで遺言者の「希望」や「メッセージ」を伝えるものであり、家族や遺言執行者に対して「〇〇のような葬儀をしてほしい」とお願いするに過ぎません。法的な拘束力がないため、家族がその希望通りに実行する義務はありません。
確実な執行には「死後事務委任契約」
死後事務委任契約は、生前に委任者と受任者(第三者や専門家)との間で締結する法的な契約です。
これにより、受任者には以下の事務を遂行する義務と権限が発生します。
-
葬儀・埋葬に関する事務: 葬儀の形式、業者、費用の支払い、納骨や散骨の手配
-
医療費の精算、賃貸借契約の解除
-
行政への届出(死亡届の提出など)
家族に負担をかけたくない方や、ご自身の希望を確実に実行してほしい方は、付言事項だけでなく、この死後事務委任契約の検討をおすすめします。
4. まとめ:想いを「遺す」ことから、家族を「守る」へ
付言事項は法的な義務ではないため、自由な言葉で書くことができます。しかし、
遺言の効力に影響を与えないよう、法定の遺言事項とは明確に区別して記載すること。
特定の相続人への否定的な感情を露骨に書くことは、かえって感情的な対立を生む可能性があるため避けるべきことが重要です。
付言事項は、単なるメッセージではなく、残された家族が遺言者の想いを理解し、円満に助け合って生きていくための「道しるべ」です。
遺言書作成の際は、行政書士などの専門家にご相談いただき、財産のことだけでなく、家族への「愛のメッセージ」をしっかりと遺すことをお勧めします。当事務所でも遺言書作成サポートを行っておりますので、お気軽にご相談ください。