事業規模の拡大に伴い、「建設業許可が必要だ」と考え始めたとき、多くの方が直面する疑問が「内装仕上工事業の許可を取るべきか?」「建築一式工事業の許可も必要か?」という問題です。
結論から言えば、この二つの許可は決定的に役割が異なります。
この記事では、多くの事業者が誤解しがちな「内装仕上工事」と「建築一式工事」の違いを明確にし、あなたが本当に取るべき許可がどちらなのかを解説します。
1.結論:工事の「範囲」と「元請けとしての役割」が異なる
まず、建設業許可は全29業種ありますが、大きく「専門工事」(内装仕上工事など)と「一式工事」(建築一式工事など)に分類されます。この分類こそが、両者の決定的な違いです。
2.内装仕上工事とは?(「仕上げ」に特化した専門工事)
内装仕上工事は、建物の中で私たちの目に触れる部分、つまり「仕上げ」に特化した専門性の高い工事です。
定義と具体例
-
定義: 木材、石膏ボード、吸音板、壁紙、たたみ、ビニール床タイル、カーペット、ふすま等を用いて建築物の内装仕上げを行う工事です。
-
具体例:
-
クロス(壁紙)の張替え
-
OAフロアの設置
-
軽天下地工事
-
造り付け家具の設置
-
重要なポイント
内装仕上工事は、請負金額がいくら大きくても、その工事内容が上記の専門分野のみであれば、「内装仕上工事」の許可が必要です。
間違えてはいけないのが、「内装仕上工事」の許可だけでは、他の専門工事(例えば電気工事や管工事など)を単独で500万円以上請け負うことはできない、という点です。
3.建築一式工事とは?(「総合的なマネジメント」)
建築一式工事の許可は、現場で手を動かす技術者というよりも、全体を管理・統括する役割に与えられる許可だと考えると分かりやすいでしょう。
定義と具体例
-
定義: 単一の専門工事では括れない、複数の専門工事を有機的に組み合わせ、建築物全体を完成させるための総合的な企画、指導、調整を行う工事。
-
具体例:
-
新築工事
-
建築確認が必要なレベルの、基礎から関わる大規模な増改築・改修工事
-
重要なポイント
-
元請けとしての許可: 建築一式工事は、原則として「元請け」の立場で受ける工事です。下請けとして、単に壁紙を張る工事を行う場合は、金額に関わらず「内装仕上工事」に該当します。
-
専門工事の施工は別: 建築一式工事の許可業者であっても、自社で500万円以上の内装仕上工事(専門工事)を直接施工する場合は、別途「内装仕上工事」の許可が必要になります。これは非常に誤解されやすいポイントです。
4.よくある誤解と行政書士からのアドバイス
特に内装工事業者様から寄せられる、建築一式工事に関するよくある誤解と、それに対するアドバイスをまとめました。
誤解1:「大規模な内装リフォームだから建築一式だ」
アドバイス: 請負金額が大きくても、工事内容が壁や床の張替え、間仕切り変更など「内装仕上工事」の範囲に収まるのであれば、建築一式ではなく「内装仕上工事」の許可が必要です。建築一式は、建物の骨格や全体の機能を総合的に管理する工事を指します。
誤解2:「建築一式の許可を取れば、内装も電気も全部できる」
アドバイス: 違います。建築一式許可は、複数の専門工事を元請として一括で請け負い、総合的に管理するための許可です。自社で500万円以上の専門工事(内装仕上工事など)を施工する場合は、その専門工事の許可も別途必要になります。
誤解3:「内装仕上工事の実務経験10年で、建築一式の専任技術者になれる」
アドバイス: 原則として、専任技術者はそれぞれの業種ごとに10年の実務経験が必要です。内装仕上工事の実務経験は、建築一式の実務経験としてそのままは認められません。(例外的な実務経験の振り替えルールはありますが、証明が非常に複雑です。)
5.まとめ:あなたが取るべき許可は?
内装仕上工事業を営む皆様が事業拡大を目指す際は、
-
まず、請負金額500万円以上の内装工事を受注するために「内装仕上工事」の許可取得が基本となります。
-
将来的に、建物の新築や大規模増改築など、複数の専門工事を統括する「元請け」を目指す場合に「建築一式工事」の許可追加を検討するのが一般的な流れです。
「要件が複雑で分からない」「実務経験の証明に不安がある」など、どちらの許可が必要か、現在の事業内容を正確に判断するためにも、ぜひ専門家である行政書士にご相談ください。正確な許可を取得し、事業の信頼性と成長を確かなものにしましょう。