家族のもしもに備える生命保険は、相続発生後、すぐ現金化できる「動く財産」として、納税や代償金の準備に役立ちます。

1. 生命保険が「必須対策」である二つの理由

 

理由① 納税資金の確実な確保(最も重要な役割)

相続税は原則として現金一括で、相続開始から10ヶ月以内に納付が必要です。相続財産の大部分が不動産や非公開株式の場合、納税資金が不足しがちです。

  • 生命保険の役割: 被相続人が契約者・被保険者となり、特定の相続人を受取人とする保険に加入することで、相続発生後、最短数日で受取人(例:不動産を相続する妻)が現金(死亡保険金)を迅速に受け取れます。この現金を納税資金に充てられます。

 

理由② 相続税の非課税枠の活用(合法的な節税効果)

生命保険金は「みなし相続財産」ですが、非課税枠があります。

  • 効果: 現金にはないこの非課税枠を利用することで、相続財産の一部を課税対象から合法的に除外し、相続税を節税できます。

2. 代償分割の原資としての活用(遺産分割の円滑化)

代償分割とは、特定の相続人(後継者など)が分割しにくい現物財産(自社株や自宅)をすべて取得する代わりに、他の相続人に対し現金を支払うことで、相続分や遺留分の公平性を保つ方法です。

  • 生命保険の役割: 不動産や自社株を相続する後継者が、事前に受取人として受け取った死亡保険金を代償金の原資として他の相続人に支払うことで、公平な遺産分割を円滑に進めます。

贈与税リスクの回避

代償金の支払いが贈与とみなされないために、遺産分割協議書(または遺言書)には、「誰がどの財産を取得し、その代償として誰にいくら支払うか」という代償分割の意思を明確に明記することが必須です。相続税の申告書には、遺産分割協議書(または遺言書)を添付します。この際、遺産分割協議書(または遺言書)に以下の情報が明確に記載されていることが、代償金が贈与ではないことの「証拠」となります。

  • 誰がどの財産(例:自社株、自宅不動産)を多く取得したか。

  • その代償として、誰が(財産を多く取得した人)誰に(財産を少なく取得した人)いくら支払うか。

この書類があることで、税務署は「これは相続財産の公平な分割のための精算金であり、単なる無償の贈与ではない」と判断されます。

3. 生命保険を活用した代償分割の仕組み(自社株承継の例)

自社株を後継者(長男)に集中させる場合のモデルケースです。

 
ステップ 内容 ポイント
受取人指定 死亡保険金の受取人を後継者の長男に指定します。 自社株を集中させる後継者に現金を確実に渡すことが重要です。
保険金受取 長男が保険金を現金で受け取ります。 死亡保険金は、原則として相続財産ではなく受取人固有の財産です。
代償金支払い 長男が受け取った現金で、妻や長女の遺留分や法定相続分を調整するための代償金を支払います。 長男は自社株を取得し、他の相続人は現金を得ることで、円満な事業承継が完了します。

メリット:株式分散リスクの解消

死亡保険金は原則として遺産分割の対象外となるため、遺言書で長男に集中させた自社株が、遺産分割協議によって株式が分散されるリスクを回避できます。

この手法を用いることで、長男への経営権の集中と他の相続人への経済的な配慮を両立させ、円満な事業承継を目指すことができます。最適な保険金額や遺言書の作成について、お気軽にご相談ください。

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