価値のない不動産は、今後さらに「処分が難しいお荷物」となる可能性が高いと考えられます。
近年、相続財産の中に「負動産」(維持費や管理コストの方が価値を上回る不動産)が含まれるケースが増えています。「まさかこんなもので揉めるとは」と仰るご相談者様が多いのですが、実は価値のない不動産こそが、親族間の争い(争族)の大きな原因になりやすいのです。
負動産が相続を難航させ、親族間の溝を深める、主な2つの理由を解説します。
理由1: プラスの財産と違い、「負債の押し付け合い」になる
通常の相続では、現金や優良な不動産といった「プラスの財産」の取り分をめぐって協議が行われますが、負動産の場合はまったく逆です。
負動産は、単なる固定資産ではなく、以下のような「負債」の塊として扱われます。
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毎年発生する固定資産税
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定期的な草刈りや修繕などの管理コスト
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老朽化による倒壊・事故発生時の損害賠償リスク
この「負債」を誰が引き受けるのか、という「負の押し付け合い」が相続協議の中心になってしまうのです。
「私には関係ない」という主張が事態を悪化させる
特に、遠方に住んでいる相続人などから「実家に住んでいた人が引き取るべき」「利用していない私には管理責任はない」といった主張が出ると、協議はすぐにストップします。
しかし、法律上、遺産分割が完了するまでは、相続人全員が不動産全体に対して責任を負うのが原則です。誰か一人が勝手に処分することもできず、問題解決が遠のいてしまいます。
代償分割も難航!「損したくない」心理
「負動産を引き取る代わりに、他の預貯金を多くもらう(代償分割)」という解決策もありますが、これも簡単ではありません。
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「この負動産を将来処分するために、いくら費用がかかるか?」
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「特定空家等に指定された場合、税金が何倍になるか?」
といった将来のリスクや不明瞭な価値をめぐって意見が対立し、交渉が難航するケースが多発します。誰もが「最終的に損をするのは自分ではないか」という心理に囚われ、合意に至らなくなるのです。
理由2: 誰も引き取らない結果、「共有名義」での放置が確定する
遺産分割協議で取得者が決まらない場合、とりあえず相続人全員の「共有名義」として登記されることがあります。
これは、その場しのぎで「公平」に見えますが、行政書士として最も避けたい「最も危険な選択肢」の一つです。
意思決定の麻痺とリスクの温存
不動産を売却したり、解体したり、大規模なリフォームをしたりする行為は、原則として共有者全員の合意が必要です。
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共有名義になった途端、関心の薄い共有者が非協力的になる
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連絡が取れない共有者が一人でもいる
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費用負担をめぐって意見が対立する
このような状況に陥ると、その不動産は「永遠に誰も手を出せない」状態になり、結局、放置され続けます。
負の連鎖の加速
この共有名義のまま、さらに次世代の相続が発生するとどうなるでしょうか?
所有権は孫やひ孫の代へと雪だるま式に細分化し、権利関係は複雑を極めます。最終的には数十人規模の共有者となり、処分はほぼ不可能になります。これは、親が抱えた問題を次世代に「負の遺産」として引き継がせることに他なりません。
負動産による争いを防ぐために
負動産の相続で揉めないための最大の対策は、「早期の決断」と「全員の同意形成」です。
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相続開始を知ってから3ヶ月以内の判断:負動産の負担があまりにも大きい場合、他のプラス財産も含めた相続放棄を検討する。
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売却や有償引き取りの検討:「売れない」と決めつけず、隣接地の所有者への打診や、専門の買取業者など、あらゆる売却・処分手段を模索する。
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専門家への相談:行政書士や弁護士といった専門家を交え、冷静に費用対効果を試算することで、「誰が引き取って、代わりにいくらの金銭を清算するか」という道筋を明確にする。
ご自身やご家族が抱える負動産の問題は、先送りせずに早期に対処することが、将来のトラブルを回避する最善の策です。
抱え込んだままでは解決しません。まずは、ご家族の未来のために一歩踏み出し、当事務所へお声がけください。