ご自身の人生を振り返ったとき、「前妻との間にも子がいる」「今は後妻と生活しているが、前妻の子とは音信不通だ」という状況にある方は少なくありません。
もしあなたがこの状況で何の対策もせずに亡くなった場合、後に残されたご家族、特に後妻様と前妻のお子様の間で、想像を絶するほどの相続争いが起こる可能性が非常に高いです。
今回は、このような複雑な家族構成を持つ方が、ご自身の死後に家族が争うことを防ぎ、「円満相続」を実現するために、なぜ遺言書が必要なのか、そしてどのような点に注意して作成すべきかを行政書士の視点から解説します。
1. なぜ「音信不通の子」との間でトラブルになるのか?
「もう何十年も連絡を取っていないから、あの人は相続を放棄するだろう」と考えるのは危険です。法律上、前妻との間のお子様も、現在のご家族のお子様と全く同じ順位の「法定相続人」です。
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子の地位は変わらない: 離婚によって夫婦の関係は解消されますが、親子の関係(血縁)は一生涯続くため、相続権はなくなりません。
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遺留分の権利: たとえ遺言書で「全財産を後妻に譲る」と書いても、前妻のお子様には法律で最低限保障された取り分である「遺留分」を請求する権利があります。
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話し合いの困難さ: 音信不通の状態では、まず相続人全員で遺産分割協議を行うための連絡すら困難です。もし連絡が取れても、感情的な隔たりや長年の不満が噴出し、冷静な話し合いは期待できません。
相続開始後、このような状況下で後妻様が単独で解決しようとすると、時間的・精神的な負担は計り知れないものとなります。
2. 遺言書がトラブル回避に不可欠な理由
遺言書は、あなたの死後、あなたの意思を最も強く実現させるための唯一の手段です。特に複雑な家族構成の場合、遺言書を作成することで以下の目的を達成できます。
目的① 財産の分け方を明確に指定する
「誰にどの財産をどれだけ渡すか」を具体的に指定することで、遺産分割協議の必要性をなくす、または範囲を最小限に抑えることができます。
目的② 紛争の予防
あなたの「なぜその分け方にしたのか」という理由や、ご家族への感謝の気持ちなどを「付言事項(ふげんじこう)」として書き残すことで、相続人たちの感情的な対立を和らげ、争いを予防する効果が期待できます。
目的③ 相続手続きをスムーズにする
音信不通の相続人がいる場合、預貯金の解約や不動産の名義変更などの手続きは、全員の署名・捺印が必要なため非常に煩雑になります。遺言書で「遺言執行者」を指定しておけば、その執行者が単独で手続きを進めることができ、残されたご家族の負担を大幅に軽減できます。
3. このケースで特に注意すべき2つのポイント
ポイント1:遺留分への配慮
前妻のお子様にも遺留分があることを念頭に置いた財産配分を検討してください。遺留分を無視した遺言書は無効にはなりませんが、結局は遺留分侵害額請求をされることになり、トラブルの火種になります。
遺留分を計算し、その分に見合う財産(現金など)を指定することで、後妻様が生活の基盤となる自宅などを守りやすくなります。
ポイント2:必ず「公正証書遺言」を作成する
ご自身で書く自筆証書遺言は手軽ですが、形式不備で無効になるリスクや、偽造を疑われるリスク、そして何より家庭裁判所での「検認手続き」が必要になるというデメリットがあります。
音信不通の相続人がいる場合、検認手続きの通知すら困難になることが想定されます。
公証役場で作成する公正証書遺言であれば、形式が完璧で証拠能力が高く、検認も不要なため、相続発生後の手続きが圧倒的にスムーズになります。複雑な相続関係にある方ほど、公正証書遺言を選択すべきです。
最後に
遺言書作成は、ご自身の死後の家族への「最後の思いやり」です。特に前妻のお子様との関係性が複雑な場合、遺言書作成には専門的な知識が不可欠です。
当事務所では、お客様の状況を詳しくヒアリングし、将来のトラブルを未然に防ぐための最適な遺言書作成をサポートしております。少しでも不安を感じた方は、ぜひ一度ご相談ください。