相続手続きの中で、最も誤解が多く、後々トラブルになりやすいのが「相続放棄」と「遺産分割協議への不参加(辞退)」の区別です。
「うちの兄は相続を放棄したはずなのに、なぜ協議書にサインが必要なの?」というご相談は非常に多く寄せられます。今回は、この決定的な違いと、正しい手続きについて解説します。
1. 「相続放棄」は家庭裁判所が必須の手続きです
まず大前提として、真の「相続放棄」とは、民法で定められた厳格な手続きを指します。
【定義】相続放棄
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続放棄の申述」を行い、家庭裁判所がそれを受理することで、初めて効力が生じます。
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これは「初めから相続人ではなかった」という法的効果を生み出します。
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この手続きを経なければ、いくら口頭や書面で「私は相続しません」と伝えても、法的には何の効力もありません。
2. 「相続放棄」が受理されていれば、協議書への記載は不要です
家庭裁判所によって正式に相続放棄が受理された方は、法律上「相続人ではない」扱いになります。
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遺産分割協議:参加する権利も義務もなくなります。
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遺産分割協議書:署名・押印は不要です。協議書には、残った真の相続人全員のみが署名・実印を押すことになります。
3. 勘違い注意!「辞退」は「放棄」ではありません
相続手続きでよくある勘違いが、この「辞退」です。
「あいつは『いらない』と言った(辞退した)はずなのに…」
ここでいう「いらない」「受け取らない」という意思表示は、単に「遺産分割協議で自分の取り分をゼロにする」という相対的な約束に過ぎません。これは、家庭裁判所が関与する相続放棄とは全くの別物です。
【重要!】「辞退」の場合の協議書への対応
たとえ「辞退」を表明し、遺産を一切受け取らないと決めても、その人は法的には相続人であることに変わりありません。
したがって、遺産分割協議が成立したことを証明するために、辞退した方も含めた相続人全員が、遺産分割協議書に署名・実印による押印をする必要があります。
この署名・押印は、「私は自分の取り分をゼロとすることに同意しました」という合意の証明なのです。
4. 放棄の有無を知るには「家庭裁判所への照会」が必要です
特定の相続人が正式に相続放棄をしたかどうかは、戸籍を見ても分かりません。
確認するためには、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、「相続放棄・限定承認の申述の有無」についての照会手続きを正式に行う必要があります。
相続手続きを円滑に進めるためにも、まずは相続人の中に「放棄した」と主張する方がいたら、この照会手続きで正式な受理の有無を確認することが第一歩となります。
相続は、法的な側面が非常に複雑です。特に借金が多い場合など、相続放棄が必要な場合は、期限(自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内)もありますので、専門家へご相談ください。
当事務所では、相続放棄の手続きや、遺産分割協議書の作成サポートを行っております。お気軽にご相談ください。