2025-06-06
任意後見契約のできる範囲・できない範囲
任意後見契約は、本人の判断能力が低下する前に、将来の生活や財産管理について、信頼できる人に代理権を与える契約です。その「範囲」は、基本的に契約自由の原則に基づき、本人と任意後見受任者(将来任意後見人となる人)の合意によって自由に決めることができます。
任意後見契約でできることの主な範囲
大きく分けて、以下の2つの領域に関する事務を委任できます。
-
財産管理に関する事務
- 預貯金の管理・運用: 銀行口座の開設・解約、入出金管理、公共料金や税金の支払い、生活費の送金など。
- 不動産の管理・処分: 不動産の賃貸借契約、売買、修繕、固定資産税の支払いなど。
- 有価証券の管理: 株式や投資信託の管理、売買など(ただし、投機的な運用は一般的に推奨されません)。
- 保険契約に関する事項: 保険料の支払い、保険金の受領、契約の変更・解約など。
- 相続に関する準備: 遺言書の作成支援など。
- その他: 債権の回収、債務の弁済、贈与契約など。
-
身上保護(生活・療養看護)に関する事務
- 医療・介護サービスの契約: 病院の選択、入院契約、介護サービスの利用契約、介護施設への入居契約とその費用支払いなど。
- 生活環境の整備: 住居の選択・移転、日常生活に必要な物品の購入など。
- 介護費用の支払い: ヘルパーへの報酬支払いなど。
- 福祉サービスの利用手続き: 高齢者福祉施設への入所手続き、各種補助金の申請など。
重要なポイント:
- 契約で定める: 任意後見契約は公正証書で作成され、その中に「代理権目録」として、具体的にどのような事務をどこまで任せるかを詳細に記載します。この目録が、任意後見人の権限の範囲となります。
- 本人の意思尊重: 任意後見制度は、本人の意思を最大限に尊重するための制度です。そのため、契約内容も本人の希望を反映して自由に設定できます。
- 家庭裁判所の監督: 任意後見契約の効力が発生(任意後見監督人が選任)すると、任意後見監督人が任意後見人の事務を監督します。
任意後見契約でできないこと(権限の限界)
一方で、任意後見契約ではできないこともあります。
-
本人の一身専属権に関する行為
- 医療行為への同意・拒否: 延命治療の可否、手術の同意など、本人の生命や身体に関わる意思決定。これは本人自身が行うべきとされています。
- 婚姻・離婚・養子縁組などの身分行為: これらは本人のみが決定できる行為です。
- 遺言書の作成: 遺言書は本人の最終意思表示であり、本人のみが作成できます(ただし、遺言書作成の支援は可能)。
-
本人が行った契約の取消権
- 法定後見制度(成年後見、保佐、補助)では、判断能力が不十分な本人が不当な契約(詐欺商法など)を結んだ場合、後見人等がその契約を取り消すことができます。
- しかし、任意後見人にはこの「取消権」がありません。これは、任意後見契約が「委任契約」であり、本人の意思決定を尊重する性質が強いためです。本人が判断能力を失ってから詐欺に遭っても、任意後見人は契約を取り消すことができないため、別途法定後見の申立てが必要になる場合があります。
-
死後の事務処理
- 任意後見契約は、本人が死亡すると同時に効力を失います。そのため、葬儀の手配、遺品整理、相続財産の管理など、死後の事務を任意後見人に任せることはできません。これらの事務を依頼したい場合は、別途「死後事務委任契約」を締結する必要があります。
-
事実行為(身体介護など)
- 食事介助、入浴介助といった身体的な介護は、任意後見人の職務範囲外です。任意後見人は、介護サービスの契約や支払いを行うことはできますが、自ら介護を行うことはできません。